今回は、不注意優勢型タイプのADHDについて。
不注意優勢型とは、ADHDの中でももっとも軽度に分類されます。実際に衝動性優位のADHDと比較すると分かりやすくなります。
まずは、衝動性優位のADHDでは、脳のどういった機能が障害されているかを見るために、先に脳の機能の説明をしておきます。
・反応抑制:周りの情報の流れにつられて思わずそちらを向かないようにする能力。
→これが弱いと、授業中すぐにいろいろなところに注意を持って行かれてしまう。
例)授業中であっても、教室の窓の外で飛んでいる鳥や風に揺れる葉っぱなどに気を取られてしまう。
・自己抑制:自分の行動や感情をコントロールする能力。
→これが弱いと、かんしゃくが多かったり動き回ることが多くなる。
例)友達とすぐに物の取り合いをして怒り出す、じっと座っておらずたとえ室内でも部屋の隅で行ったり来たりしているなど。
・ワーキングメモリ:短期記憶の一種。
→これが弱いと所謂「学力」が大幅に低下する。
例)テストの点数が平均以下であることが多い
そして、衝動性優位型のADHDにおいて障害されている脳の機能は以下の通りです。
・反応抑制 障害されている
・自己抑制 障害されている
・ワーキングメモリ 障害されている
つまり、三つの機能全てが障害されているということになります。
一方で、不注意優勢型はどうなるでしょう。先のタイプと比較する以下のようになります。
・反応抑制 障害されているが軽微
・自己抑制 障害されているが軽微
・ワーキングメモリ 障害されている
つまり、不注意優勢型は、衝動性優位型に比べて、反応抑制機能と自己抑制機能の働きが比較的良好であると言えます。
このことから、不注意優勢型がADHDの中でも比較的軽度であると言えます。言い換えれば、もっとも改善が早く済むのもこのタイプであるということです。
不注意優勢型とは
不注意優勢型は比較的女性に多く、時間をかければ学業でもどうにかついていけるので、大人になっても自分がADHDだったと気づく人は少ないのです。
「もしかしたら自分は何か問題があるのかもしれない」と気づく場面が来るのは、働き始めてからがほとんどです。これは、自分自身で困難を感じて病院を受診する場合だけではありません。企業側が採用する時点では分からなかった、実際に業務に就いた後の、その人の「要領の悪さ」や「仕事のできなさ」などが目立って来るために、会社から診断を勧められることがきっかけで初めて発覚するパターンもあります。
本人は様々なサポートを必要としますが、食事、薬、運動、サプリメント、ワーキングメモリトレーニングやコーチングなどの取り組みで低下している脳機能を補う、あるいは高めることは可能です。
ADHDは緊張感がないと動けない
不注意優勢型のADHDは、興奮、好奇心、恐怖や緊張などを感じていると注意力が高まるので、一見すると集中力に問題はないように見えます。しかし、すでに習慣化された日々のルーティンワークを半ば無意識にこなすとなると、一気に集中するのが難しくなります。
これは簡単に言えば「緊張感がないから集中ホルモンが出ない」ということです。ADHDの人にとっては、ある程度はピリッとした空気感が存在しないと、脳は十分に本領を発揮できなくなるのです。
一方、定型発達であれば、たとえ緊張感のない状況であっても、ある程度の集中力をコントロールすることが可能です。これは、集中ホルモンが常に適度に出ているためで、わざわざ緊張感のあるシチュエーションを作らなくとも、特に問題なく思った通りの行動ができるのです。しかし、たとえ相対的に「軽度」とはいえ、不注意優勢型のADHDではそうはいきません。
ADHDの脳の場合、一旦シチュエーションに慣れてしまうと途端に集中するのが難しくなります。それどころか、集中しなければと意識をすればするほど余計に頭が真っ白になることさえあります。
習慣化された作業とは、以下のようなことです。
・ほぼ毎日、学校や塾から出される宿題
・タイムテーブルが規則的に管理されているため同じような状況になる授業
・毎日同じような繰り返しを求められる家事
・事務処理などといった書類仕事、内容に大きな変化のない作業
ADHDの人々にとって、これらは一生苦労が付きまとう作業でしかありません。
ADHDの人々にとっては、ルーティンワークや物事を最後までやり遂げることは、それ自体非常に難しいのです。
一時期、「やり抜く力」といったワードがつり革広告などで目にする機会がありましたが、ADHDの人々にとっては、好きではないことを最後までやり抜くのは非常に困難です。
最後まで作業をする忍耐力が十分でないため、本人が興味を持って取り組んでいるうちの生産性は高いですが、飽きてしまうとそれっきりとなってしまうこともあります。
たとえば、ある作業が半分なり八割の完成までくると、途端に興味がなくなって他の新しい仕事を始めることがとても多いです。目標地点が見えてくると、モチベーションが下がり、一気にトーンダウンするので途端に脳の機能が低下してしまうのです。
この次にADHDの人に多いのが、引き伸ばし癖です。
ADHDの人々は、なかなかエンジンが掛からないため、ギリギリになって焦りを感じてからでないと行動ができません。これは、焦りからくる緊張や集中ホルモンの作用を借りないと行動に移す力が出ないためです。
こうした、最後までやり抜くことが難しい、先延ばし癖があるといった特徴は、社会生活を送る上で様々な支障になります。
よくある例は以下の通りです。
・学校で宿題をギリギリに提出する、あるいはそもそもしてこない。
・家事をギリギリまでやらない、あるいはそもそもしない。
・仕事などで、報告書などの書類が必要な期日までに間に合わない。
・十分なお金を持っているにもかかわらず支払期日に遅れ、超過料金を取られる。
・人との約束をうっかり破ってしまう。
心の理論
ADHDの方々は相手の立場に立ってものを考える能力は持っています。これは自閉症やアスペルガー症候群と大きく異なる点です。
ただし、先を見通して計画するための機能が十分に働いてくれないことが多いので、自分の考えを点検してから発言することがうまくできない場面も増えてきます。というのも、点検にはそれなりの集中力が必要だからです。
そのため、ADHDの人は無自覚に相手の怒りを買ってしまうということがよく起こりますが、本人としては特に考えずにうっかり言ってしまった、という感覚が強いのです。
定型発達であれば、過去の記憶を検索して「これを言えば相手が怒るかもしれない」と十分に自分の考えを点検してから発言します。
自分を客観視して、発言内容を点検するという作業を普段から自動的に(無意識に)行なうことは、定型発達の人からすればそれほどの労力を必要としません。一方で、ADHDの場合これは自動ではなく手動(意識的に)で行う必要があります。
もちろん慣れれば、たとえADHDと言えども自動化されます。ですがわざわざそういう訓練をする必要がなかった場合、大人になってから苦労する場面が増えるリスクがあります。
たとえば、先読み能力が十分に発達していなければ、訓練を積まない限りはチェスや将棋などはとても場当たり的な手しか打てません。
これは生活面でも同じです。
・前もって状況を先読みする
・これまでの経験からの知識を検索する
・問題を自主的に解決する
これらの機能が低下してしまっているので、どうしても
・長期的な高報酬ではなく、即時低報酬
・長期的で健康的な生活でなく、その瞬間の快楽(パチンコや覚せい剤など)
・長期的で理性的な判断でなく、その瞬間の感情による判断
などを追い求める傾向にあります。
ADHDに有利な点
しかし、ADHDにも当然良い点はあります。
・どのような環境であろうと、本能的な行動で心地よく過ごすことが可能。
・瞬間的な行動や判断が場合によっては思いがけない発見をもたらすことがある。
・過集中が続けば、大きな力と流れを作り、それが歴史を作ることもある。
・常に刺激を求めて行動するので、新しいことを積極的に試す。
・好奇心に突き動かされて、まだ一般的でないことに挑戦し第一人者となることがある。
他には、好きなことをしている時は集中力を発揮します。「好きこそ物の上手なれ」という言葉が表すように、楽しいと思える時は集中ホルモンが分泌されるためです。
もちろん定型発達の人であっても、多少の差はあれどhave to(「〜しなければならない」)の場面ではパフォーマンスは下がってしまいます。ですが、少々嫌でも全く作業が手につかないなどということはなく、どうにか我慢してこなせる場合がほとんどです。同様に、want to(「〜したい」)の場面では元気よく行動でき、生産性も高まります。
ADHDの人々においては、その調節が一般の方々よりも極端に働くと言えます。本人にとってwant toの場面では、ADHD特有の過集中と相まって非常によく脳が機能し、have toの場面では極端に脳の機能が低下してしまうのです。
言い換えれば、ADHDの場合want toさえ見つけてしまえば、それを将来に繋げるだけの力を生む可能性が高まるといえます。
歴史的に大きな変化を作ってきた人たちは、自分の道を突き進んでひたすら行動してきたように見えるのも、もしかすると過集中や新奇追求によって果たせたことなのかもしれません。
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