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ADHD児のしつけ方に関する14のルール

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その3:社会的治療

(※「その1:生物学的治療」及び「その2:心理学的治療」に関しては、前々回、前回のコラムを参照)

 ADHDを抱えている人々は、周りと比べて自分だけがルールを守れなかったり、課題をこなせない、コミュニケーションがうまく取れないといったことを、多く経験しています。家庭、保育園や幼稚園、学校などといった社会的な環境の下、そうした困難や挫折を子どもの頃から味わう内に、ADHD児の自己評価は低まってしまいます。

 失敗を重ねる中で自分をダメな人間だと思うこと、これは実のところ、ADHDの改善を目指す上で大きな障害となります。というのも、「自分は何をやっても〈普通の人〉たちのようにうまくはいかない」という絶望感や孤立感は、いずれ「どうせ自分なんて」と、自分自身の将来への可能性を全否定する感覚に繋がるからです。そうなると、試して見れば本当は出来る事でも、挑戦する前から諦めてしまう癖がつきます。そのせいで、治療に非協力的な態度や大人への反抗が悪化するのです。

 相馬ハウスでは、ADHD児の内面にある孤立感や無力感を、適切な療育によってケアし、彼らに社会性を身につけさせた上での改善を目指しています。ADHD児の心の奥にある、「自分はダメな子なのではないか」「こんな思いをしているのは自分だけだ」といった感覚は、何よりも本人の精神的な健康に悪影響を与えるので、積極的に変えていく必要があります。

 当教室の療育プログラムは、科学的な根拠に基づいた課題をこなすことで、脳のはたらきを高めるだけでなく、子どもたちに達成感を得る機会を作ります。ぜひ、子育てに悩みを抱えている親御さんたちは、相馬ハウスにご相談ください。発達障がい専門の療育のプロが、お子さんの成長を健全な方向へ導く手助けができるはずです。

 

家族の役割〜ADHD児のしつけ方〜

 一言で「社会的治療」といっても、そのあり方は様々です。

 そこで、まずは「社会」の最も小さな単位である〈家族〉は、ADHD児を相手にどんな治療が出来るのでしょうか。それは、ADHD児を健全に育てるための、正しいしつけの方法を学ぶことです。つまり、ADHDの改善には、症状を抱えている本人だけではなく、むしろ彼ら彼女らを取り囲む身近な大人たちの方こそ、先にADHDとの接し方や扱い方を学ぶ必要があるのです。

 ただし、具体的なしつけ方の説明に入る前に、ひとつ注意しておくべきことがあります。それは、ADHD児を育てている親御さん本人や、ADHD児の兄弟姉妹にも、同じ症状を持つ人が居ないかどうか、確認する必要があるということです。そして、もしも親兄弟にADHDを抱えている人が居たら、そちらの治療も進めなければなりません。でないと、ADHD児との適切な接し方を学んだとしても、きちんと課題をこなせない場面が出て、肝心の子どもの治療がスムーズに進まないからです。

 

ADHD児を育てる親の心構え

 ADHD児を育てる上で、社会的なサポートを一番与えやすい立場にいるのは親御さん自身です。子どもを良い方向へ成長させるためには、まずは親が先に変わる必要があるのです。

それでは、具体的にどのように変わったら良いのでしょうか。

 

(1)目標を持とう

 親として、自分は子どもに何を身につけさせるのか、きちんと目標を設定しましょう。そして、子どもと接する時は、自分の行動が目標に合っているか、チェックするようにしましょう。

 

(2)親子関係を良好に保とう

 何よりもまず、良好な親子関係を築くことが、何よりも優先事項です。子どもとの関係がうまくいっていなければ、どんなしつけもうまくいきません。逆に言えば、良い関係を保てていれば、しつけの細かな違いまでは堅苦しく決める必要もないのです。

 

(3)子どもと毎日「特別な時間」を過ごそう

 親子関係を良好にするためには、親が子どもと一緒に過ごしてあげることが何よりも大事です。1日15分だけでも良いから、一緒に遊ぶ時間を毎日作ってください。親の愛情を感じることで、子どもは「自分は大切な存在なのだ」と感じることが出来るようになります。その感覚が、子どもの自尊心を高めてくれるのです。

 

(4)子どもの話に耳を傾けよう

 子どもは、親の気を引きたくて様々なことをします。その内のひとつに、おしゃべりがあります。ぜひ、子どもの「聞いてほしい」にこたえましょう。子どもの話に対して、親が意見を言ったり、何かを教える必要はありません。むしろ、普段は親から子に教え諭したり、叱る場面が多いからこそ、意識して先に子どもの意見を聞く、これが肝心なのです。

 

(5)家庭のルールや目標などの決まりごとは、分かりやすくすること

 曖昧で難しい決まりや、細かいルールは、子どもにとって理解しづらく、結果的にルールを破りやすくなってしまいます。子どもでも分かりやすくシンプルなルールを紙に書いて壁などに貼り付けると良いでしょう。

 たとえば、「① たたかない ② どならない ③ 物をなげない ④ 他の人にやさしくする」といった短くて読みやすい言葉にするのがベストです。

 

(6)子どもが家庭のルールや目標を守っていたら、必ず褒めること

 子どもがルールを守ったり目標にかなう行動を取っていたら、親は素通りせずにしっかり褒めましょう。子どもにとっては、褒められること自体ももちろん嬉しく、達成感も得られ、自己評価の高まる体験です。それと同時に、親が自分のことを見てくれている、という安心感や幸福感も得られるのです。

 

(7)好ましい行動を褒める回数は、悪い行動を注意する回数よりも10回以上多くする

 親の関心を引きたがるのは子どもの癖です。そのため、悪いことをして激しく叱られたり注意される回数が、良いことをして褒められる回数よりも多いと、悪いことをして注目されたいという気持ちの方が強くなってしまいます。ですから、子どもの望ましい行動を褒める回数を叱責の回数よりも多くして、良い行動を取った方が親は自分を見てくれる、という感覚を持たせる必要があります。そうすることで、子どもの行動を健全な方向に引っ張ることができます。

 また、子ども自身も、たくさん褒められることで、自分の長所に気づき、ネガティヴな自己イメージに支配されずに済みます。

 

(8)親は信念を持って、自分の発言を貫こう

 たとえば、一度厳しく叱りすぎたなど、子どもへの接し方で自分に罪悪感を覚えることもあるでしょう。しかし、そのやましさから、子どもに対して引け目を感じて、次の機会に「大目に見過ぎる」など、無駄な遠慮をする必要はありません。

 むしろ、一度決めたルールや、一度子どもに言ったことに対して途中で態度を変えてしまうと、子どもを混乱させる原因になってしまいます。

 同様に、子どもに何かを約束したら、必ず守らなければなりません。そうでないと、親がルールや約束を破る姿を見れば、子どもはそれをそのまま真似してしまうからです。

 

(9)指示はしつこく繰り返さず、守らなければ罰を与え、強制するくらいの覚悟を持ちましょう

 「罰」や「強制」といった言葉を目にして、ドキリとした親御さんもいるかもしれません。この点に関しては、教育会でも様々な議論がなされています。

 しかし、「罰」や「強制」とは、決して大人の怒りや不満を子どもにぶつけるための手段ではありません。あくまでも、子どもが悪いことをした場合に、淡々と与えるペナルティです。サッカーで違反をした選手にイエローカードを出すことに似ています。しつけの場合、最も有効なのは「タイムアウト」です。ルール違反に対して、「年齢×1分間」だけ、別の部屋に置いた椅子に座らせるのです。事務的に行うのが肝心で、大人が感情を爆発させて怒鳴り散らしたりするよりも、ずっと有効なしつけ方法です。それどころか、ADHD児にとっては、怒鳴り声は脳を活性化させる刺激になってしまうため、怒鳴られようとする癖をつけてしまう危険性もあるほどです。

 

(10)親が感情的になっている時は、決して子どもに罰を与えてはいけない

 感情的に怒鳴ったり叩くのと同じ感覚で、タイムアウトなどの罰を与えてはいけません。親は、自分が冷静ではないと感じたら、子どもから離れて深呼吸するなど、子どもの前で感情を爆発させるのを避けましょう。(9)でも説明した通り、ADHD児にとっては、怒鳴りつけられることは脳への魅力的な刺激になります。そのため、親子の間で悪循環を起こさないためにも、冷静さを失わないことが大切です。

 「罰」とは、あくまでもルールを守らせ、物事の良いあり方を教えるための手段です。

 

(11)親が全てを決めるのではなく、子どもにも選択肢を与えよう

 服、おやつ、今日はどこへ散歩に行くかなど、全てを親が先回りして決めてしまうと、なんでも親に頼りきりになってしまいます。自分で考え、自分で決めて、自分で選んだ行動に自分で責任が取れる子どもにさせる方が、子どもは自分の将来に不自由せずに済むので、その予行演習をたくさんしましょう。

 

(12)両親は仲間割れせず、協力し合おう

 両親が大人同士として育児について真剣に考えるのはとても良いことです。しかし、教育方針に違いがあって、それが夫婦喧嘩のタネになってしまっては、本末転倒です。そもそも、子どもにとって親の喧嘩を見ることは心理的なダメージになります。また、両親が仲間割れしてしまうと、巡り巡って家庭内での子どもの権力が大きくなり過ぎてしまいます。家庭や家族のあり方を仕切るのは、子どもには難しすぎて、到底できることではありません。両親は、子どもとの接し方、ルール、しつけの方法について具体的に話しあい、まずは大人同士でルールを守る必要があります。子どもは、そんな両親のやりとりを見て、人間関係の基礎を学ぶのです。子どもの良いお手本になれるような関係を夫婦間で見せられるようにしましょう。

 たとえば、両親のどちらかがもう片方を馬鹿にするような態度を取るなどは、人間関係の手本として望ましいとは言えないでしょう。

 

(13)親は、自分だけの時間や夫婦だけの時間を確保しよう

 365日、24時間、子どもとつきっきりでは、それだけで疲れ切ってしまい、心に余裕がなくなります。それでは、子どもとの接し方をコントロールする力もなくなり、良い影響も与えられません。

 

(14)毅然とし、なおかつ柔軟に接すること

 正しいことやルール、目標の設定と、それを貫く毅然とした態度は、親が手本となる上で見せるべき姿です。しかし、それを実際に子どもに教える時は、恐怖を与えて上から押さえつけるのではなく、親切に手ほどきしなければなりません。

 繰り返しになりますが、怒鳴る、叩く、言葉でしつこく責めるなどは、決して取るべき行動ではありません。

以上が、以上が、ADHD治療の三つのアプローチの内の三つ目にあたる、「社会的治療」のポイントでした。今回は、親子関係に焦点を絞った説明になっています。次回以降に、家庭以外での子どものサポートについて解説します。 

 

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