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【誤解だらけのADHD】根性論?しつけ不足?ADHDなんて存在しない?

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 他の障がいと同じく、ADHDについては、本人だけではなく周りが積極的にその特性や関わり方を理解する必要がありす。というのも、時が流れれば、その分だけADHDをはじめとする発達障がいについての情報も新しくなるからです。「十年一昔(じゅうねんひとむかし)」という熟語がありすが、とりわけ、近年世の中での認知が急速に高っている発達障がいにつわる知識は、十年よりもさらに短い期間で、新しい情報が入ってきす。それだけ、脳科学や精神医学といった学問の領域で、発達障がいに関する研究が熱心に進められているということです。しかしながら同時に、何かが勢いよく知れ渡る時というのは、必ず誤解や間違った情報も広がることに、気をつけなければなりせん。

 

 そこで、今回は、ADHDにつわる迷信を見ていきしょう。もしも、あなたの子どもや、パートナー、家族、あるいは、あなた自身がADHDと診断された場合、きっとこうした迷信に振り回されて疲れたり、傷ついたりする可能性がありす。前もって知っておくことで、不必要にどわされないよう、心構えができるはずです。

 

迷信その1:ADHDそのものが疑わしい

 

・ADHDなど存在しない、子どもは子どもらしく少し手を焼くほどでいい

・誰しもが、ちょっとずつADHDっぽいところがある、障害として扱うなんて大げさ

・簡単に診断できるため、ADHDの人が量産されている

 

 ADHDについて少しでも知っている人であれば、「ADHDなんて存在しない」などという意見があること自体、驚きかもしれせん。しかし、これは言い方こそ極端で大げさですが、要するに「ちょっと活発すぎる子どもを、障害者として扱うなんて大げさだ」という発想なのです。特に、古い時代の常識にとらわれていたり、医療が関わることを嫌う価値観を持っている一部の人々には、この傾向が見られす。世間体を気にしたり、病気や障害に対する偏見が根っこにある場合は、なおさら、医者の診断や治療に抵抗を示すことが多くなりす。

 た、「誰でも少しはADHDっぽいところがある」という考え方や発言をする人も、意外と少なくありせん。このような発言自体には、さして悪気がないこともありす。たとえば、ADHDの症状を自分の子ども時代などと比較して、「誰にでも忘れっぽかったり、衝動的になることはあるよ」と、す意味を込めていることもあるからです。しかし、悪気のなさは、一歩間違うと無神経さになってしうのも事実です。本当に困っているADHDの人からすれば、この励し方はあり有効なものではありせん。

 

 確かに、専門家によっては「発達凹凸」といった言い回しを使うくらい、発達障がいは定型発達(いわゆる「健常児/者」)との境目が曖昧で、症状の現れ方や深刻さには個人差がありす。しかし、だからといって、誰もが経験する「忘れっぽさ」や「わんぱくな子ども時代」とADHDの症状を大差のないものとして扱うのは、少し軽率にすぎると言えるでしょう。

 

迷信その2:ADHDを根性論で考える

 

・本人がもっとやる気を出せば、状況はよくなる

・ADHDの人は単に怠け癖がついているだけ

・彼らはADHDを何か問題が起きた時の言い逃れに使っている

 

 うつ病の人に「頑張れ」と言うことは、無意味どころか逆効果で、本人を余計に悪い精神状態に追い込むため、禁忌とされていす。それと同様に、ADHDやLDといった発達障がいの人々にも「頑張れ」や「もっとしっかりしよう」や「本気を出せば」といった励し方は、逆効果です。

 ADHDとは脳の構造、機能、化学物質といった複数の面で問題を抱えている障がいであり、彼らにとっては、計画的に物事を考えたり、整理したり、集中して何かに取り組むといった作業がとても難しいものとなりす。これは本人の意志でどうにかできることではありせん。しかし、ADHDのこうした特性は、定型発達の人の目には怠けているようにしか見えないため、非常に誤解が生じやすく、なトラブルの原因になりがちです。

 

 ADHDの人を根性論でどうにか変えようとすることは、彼ら本人に問題があるというより、そのような関わり方をしてしう周囲に問題があると言えるでしょう。

 

迷信その3:ADHDは訓練や躾(しつけ)の問題

 

・ADHDの人に必要なのは、より厳しい訓練である

・子どもがADHDになるのは間違った躾(しつけ)のせい

 

 先の「迷信その2」は、問題の原因を本人にだけ押し付けるような考え方でしたが、これはむしろ逆の迷信です。つり、人がADHDを持つ原因を、本人以外の環境、すなわち、親や学校のせいだとするのです。

 確かに、しつけ方や環境を変えることで、子どもの症状に変化が起きることは事実です。しかしながら、しつけや環境がADHDに影響を与えるからといって、それが全ての原因とはなりせん。しつけ方や環境を変えることは、あくでも事後的に取り組む対処であり、改善策なのです。

 しつけや環境がADHDの原因であるとする考え方は、ADHDが完全に後天的な障がいであると言っているのと同じです。つり、それは交通事故で身体に障がいが残ることと同じになってしす。しかし、当然のことながら、ADHDは遺伝的な影響によって生じるものでもありす。前回のコラムで「多因子モデル」について触れた通り、人がADHDになる原因は、先天的なものや後天的なものが複雑に絡みあって生じるという説や、遺伝子が環境要因によって変化する「エピジェネティクス」という学説も、有力になっていす。

 つり、何が原因かについての議論には限界があり、必ずそこには、だ解明されていない要素があると考え、安易に「ADHDはこれが原因だ」とひとつに決めることはできないのです。

 

ADHDの診断は簡単なの?

 

 よくある迷信に、「誰もが簡単にADHDと診断されるため、ADHDを持つ人がどんどん増えている。そういう人は、自分の怠けぐせの言い訳に病気を利用している」という考え方がありす。

 結論から言えば、ADHDは診断が簡単どころか難しい障がいです。というのも、いわゆる「病気の原因(病因)」については、脳科学での研究の成果はとても大きいこの障がいは、それでも、脳だけで診断をすることができないからです。ADHDの脳に関する研究は、主に脳の形状、機能、化学物質の三つの側面に分けることができす。形状とは、り脳の形や大きさ自体に、定型発達との違いを発見することです。機能とは、主に脳の血流の変化から、活動の高りや低下の具合をみて、ADHDの脳が定型発達の脳とは異なる情報処理の仕方をしているとする研究です。化学物質とは、ドーパミンやノルアドレナリンといった、脳内で分泌される神経伝達物質の変化からADHDの脳の特徴を見出す研究です。

 このように、ADHDは脳科学によって解明されつつあると言っても過言ではないほど、その研究結果は大きな影響力を持っていす。それによって、ADHDの症状をどのように改善すれば良いか、薬物療法、行動療法、特別な教育環境や訓練など、な対応策が練られてきした。それらは、今も日進月歩であると言えるでしょう。

 しかしながら同時に、これほど研究が進んでも、たとえば脳の画像を見てすぐに診断を下せる、というわけにはいかないのが現状です。脳機能や化学物質の変化を見ることは、だ限定的な場面でしか行えないため、他の状況では脳がどのように活動しているか見えにくいという問題がありす。脳画像は写真のようなもので、特定の場面を切り取ることはできても、その前後や異なる場面では分からないのです。これらは今後の課題となるでしょう。

 現状では、脳科学的と精神医学や発達心理学の協力が、ADHDの診断に必要不可欠です。

 

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