定型発達児、発達障害児と被虐待児とでは褒められ時に脳に差が出ている
みなさん、お子さんを褒める時はどのようにしていますか?
・頑張ったねぇ、と声をかける。
・まだまだ甘いよ!と少し厳しめにする。
・すごいじゃないの!とハグをする。
・お金を与える、おやつを与える。
・特に褒めない。
それぞれみなさん思い思いの方法で褒めているのではないでしょうか。
中にはやる気を出させるためにお菓子で釣ったり、ユニークなお小遣いシステムを導入したり、緊張感を持たせるためにそれなりにきつく言ったり、様々だと思います。
実は、叱り方や褒め方もその子の脳機能に合わせてそれなりに変えていく必要があります。
例えば、ADHDの場合
・たまにピリッとした緊張感のある空気を作る
・軽くではなく、大げさに褒める
この二つを使い分ける必要があります。
一般的な子であれば、四六時中大げさに褒めたり、ピリッとした緊張感のある空気を用意する必要はありません。もちろん、個人差にもよりますが、緊張感など、特に何もない状態があっても大きく問題になることはありません。
ですが、ADHDの場合は別です。なぜなら、普段ADHDの子供は集中ホルモンが一般の人よりも少なめに出ているので、一見すると怠けているように見える、ぼーっとしているように見える、落ち着きがないように見えるかもしれません。これは、集中ホルモンが前頭前野に十分に行き届いていないため、自分の感情と行動を抑制したり注意力をコントロールできないためです。つまり、脳の本領を発揮できない状態が続いているといえます。
こういう子には、たまにピリっとした空気を作ることで、緊張感からくる集中ホルモンが出てきます。こうなると、脳は本来の機能を一気に取り戻すので様々な作業が進みます。しかしこればっかりだと、今度はストレスで参ってしまうのでほどほどのラインが必要となります。
実際の生活で当てはめて考えてみましょう。
あなたは普段起きるのが苦手だったとします。用事があるのは分かっているけれど、ずっと布団の中にうずくまってゴロゴロしています。こういう時に、優しく起こされても寝てしまう人と起きられる人に別れるかと思います。
ですがもし、家族が烈火の如く怒り出してあなたを叩き起こしたとします。おそらくあなたは驚いて、心臓はバクバクとして一気に目が覚めるのではないでしょうか。
これは、「ノルアドレナリン」と呼ばれるホルモンによる作用で、あなたの脳は慌てて戦闘モードへと切り替わったためです。戦闘モードの状態だと、あなたの注意力は普段以上に高く、どんなことでも注意して作業などを進められます。
つまり、集中ホルモンとは「ノルアドレナリン」のことです。
しかし、集中ホルモンにはもう一つあります。それは、好きなことをしている時や楽しい時に出る物質で「ドーパミン」と呼ばれるものです。
ノルアドレナリンもドーパミンも集中ホルモンですが、出る場面とその効果は違います。前者は緊張している時やストレスのかかった状態で出ますが、後者は楽しい時に出ます。
ノルアドレナリンは諸刃の剣
あなたが子供だった頃を思い出してみてください。こんなことに身に覚えありませんか?
親や教師の堪忍袋の尾が切れて激昂したとします。あなたはその日、一日中緊張感と張り合いを感じて妙に集中できていませんでしたか?妙に頭がスッキリして、無駄なことをせずにさっさと作業をしようという気になりませんでしたか?
それが「ノルアドレナリン」の効果です。
ADHDの人の場合、緊張すると頭がスッキリすることを経験的に知っています。そのため、ADHDの人の中にはノルアドレナリンの出る量を増やすために刺激を求める行動をとる方もいます。例えば、他人にやたらとケンカを売ったり、危ない運転をしたり、親や先生をわざと挑発して殴らせようと画策するなどの方法を編み出します。
ADHDの子どもの中にも、当然このように自ら緊張感を高める行動をとる子がいます。初めは叱られたりするのが嫌だったはずなのに、いつのまにかノルアドレナリンの虜になって余計に問題行動を噴出させるということですね。
親としては、今までは躾のためにと程よく緊張感を持たせてうまくいっていたはずだったのに、ここまで来てしまうとむしろ逆効果です。この場合、子供の「ノルアドレナリンゲーム」には一切付き合わない!という断固たる姿勢が必要となります。例えば、問題行動が出た時は徹底的に無視をする、あるいはタイムアウトに入れるなどです。
問題行動の消去を行おうとすると、ほぼ間違いなく「消去バースト」と呼ばれる現象が起きます。消去バーストとは一時的に問題行動が悪化することを言います。この悪化した状態に屈して思わず相手の要望に答えたり、相手の「ノルアドレナリンゲーム」に付き合うと非常にまずいことになります。
万が一にも親が根負けをして、消去バーストに屈したとします。消去バーストで自分の要求が通ったという勝利感を得た子どもは、それ以降何度も同じことを繰り返し、親を好きに振り回そうとします。
ですが親は子どもの言いなりになってはいけません。厳格で、何がなんでも断固として挑発行為やわがままに屈しないという姿勢を維持する必要があります。
褒める場合
褒める場合、軽く褒めるのではなく、しっかりと大げさに褒める必要があります。
これには理由があります。
定型発達の子供というのは、少し褒められただけでも十分に喜びを感じます。
・できたね
・頑張ったね
・バッチリだね
など一言でも十分に子供は嬉しいので喜びます。
これは、脳の中にある「報酬系」と呼ばれる部分が十分に発達しているためです。ここがしっかりと発達していると、小さな報酬であってもしっかりと働いてくれます。わざわざ大きな餌を目の前にぶら下げなくとも、本人がワクワクできる目標を設定してやる、できたら努力を褒めるなどでドーパミンは出ます。
一方で、発達障害児の脳は、この「報酬系」が十分に機能していないためにドーパミンの出が悪くなっています。大きな報酬であればしっかりとドーパミンが出ることはわかっていますが、小さな報酬に対してはほとんど反応しないのです。つまり、軽く褒められたくらいでは十分に喜べない、達成感を得られない、ドーパミンが出ないということです。
ADHDの青年や成人がドーパミン欲しさに覚せい剤などに手を出してしまうケースが多いのもおそらく普段からなかなか簡単にはドーパミンが出てくれないことから来ているとも考えられます。
ドーパミンの出にくさをカバーするにはどうすれば良いか。それは、大げさに褒めることです。子どもの努力する姿や、何か良い行いをしたら本当に自分のことのように喜んでください。ADHDの子どもでも、ミラーニューロン(鏡のように相手の気持ちや行動を追体験する細胞)は障害されていない場合が多いので、とても喜んでいる人がいれば多少は追体験できると考えられます。
さらには、褒められるという体験そのものが直接の効果を表します。
褒められる体験によってドーパミンを出し、成功体験を増やして自信をつけ、ワーキングメモリを高める事でドーパミンの出やすさはさらに良くなります。
被虐待児の脳
1歳前後でネグレクトも含め身体的ないしは性的な虐待を受けていた経験のある子供の脳は、報酬系がほとんど機能していないことが分かっています。
彼らの特徴は、自己肯定感が低く回避的であることです。さらには、どんなに褒めても全く心に響きません。
回避的というのは、他人との関わりを持とうとしないという意味です。他人に対して関心がなく、一見すると発達障害にも見えるので医者による鑑別が難しいこともあります。
虐待やネグレクトによって障害された報酬系は、大きな報酬だろうが小さな報酬だろうがほとんど活性化しません。しかも、この報酬系の機能が低下していれば低下しているほどより孤立を好む「回避型」の傾向になります。これが自閉症との鑑別を難しくしている理由の一つです。
しかし、言い換えれば、報酬系をどうにか発達させれば、他人に対する興味や関心を持たせられる可能性もあるということです。実際、9歳までに報酬系が改善した子は定型発達児と並んで一緒に過ごせるようになります。
しかし、残念なことに9歳をすぎるとその改善例はほとんどなく、自閉症と診断されてしまうケースが多いようです。
つまり、本来は自閉症ではなかった可能性があったにもかかわらず、臨界期を過ぎてしまったがために改善するきっかけを失って自閉症と診断されてしまったという見方もできます。
どうすれば報酬系を鍛えられる?
実はこの報酬系を活性化させて、自閉傾向にある子供を改善する方法があります。
KID ACADEMYではその方法論が取り入れられているのですが、実際に効果は現れています。
例えば、自傷行為の目立つ自閉傾向の児童が全くのゼロの状態からものの3ヶ月で大幅に改善し、自傷行為がほとんど消失したケースです。それだけにとどまらず、言葉も伸び、今まさに定型発達児に追いつかんばかりに成長している段階にあります。