兄弟や姉妹にみられるパワーバランスの違いからくるイジメには様々な原因があります。もともと親の愛情を100%独り占め出来ていたにもかかわらず、二人目が出来たことによって得られる愛情が50%に減らされることを大きな脅威に感じることがあります。これにより、一人目はより親に構ってほしがり、二人目はそれを遠巻きに見ては友達と遊ぶことを選ぶ、とういうことが観察されることが多々あります。
では、家庭内イジメに関してどのようなことが分かっているのでしょうか。
いじめの被害にあった、あるいは加害者だった、あるいはその両方だった場合どのように育つ傾向にあるのでしょうか。
これまでに分かっている家庭内イジメに関する先行研究を紹介するとともに、自閉症の場合はどうなるのかを解説します。
イジメに関する様々な先行研究
良好な家族関係、特に兄弟や姉妹の良好な間柄に関しては子供たちの情緒や社交性を築き上げるのにとても重要であることが分かっています。(Brown et al. 1996; Downey and Condron 2004; Stormshak et al. 1996).
一方で、喧嘩や口論も兄弟間では珍しくもありません。50%ほどの子供たちが兄弟や姉妹からいじめ被害を受け、40%はイジメ加害者であったと報告されています。(Wolke et al. 2015).
家庭内のいじめとはこのように定義されています。
“被害者の意思とは無関係にパワーバランスの違いからくる兄弟や姉妹により繰り返される乱暴な言動のこと;いじめにより、被害者には肉体的、精神的、社会的な苦痛が引き起こされることがある。いじめには、間接的なものと直接的なものとがあり、さらに(身体的、言語的、関係性的、所有物へのダメージ)の4つに分類できる”(Wolke et al. 2015, p. 918).
男子は女子に比べて家庭内いじめを行うことが多く (Tippett and Wolke 2015)、女子や年下の子供は年上の家族からいじめの被害に遭いやすいようです。(Bowes et al. 2014).
家族内の子供の数が多ければそれだけイジメが多くなることも分かっています。(Bowes et al. 2014; Tippett and Wolke 2015).
また、子供の数が四人を越えるとADHDの素因を持っている場合、ADHDの症状の重症化に繋がります。(Rutter’s indicators of adversity)
家庭内イジメで、どんな症状が表に現れやすくなるのか
家族内のいじめは抑うつや孤独感と関連性があります。(Duncan 1999)
さらに、問題行動の増加(Wolke and Samara 2004; Wolke and Skew 2011)、 精神的ストレスの増加とも関連性があることが分かっています。 (Tucker et al. 2014b)
極め付けは、12歳までに家庭内いじめを経験している場合、経験しなかった子供と比べて18歳になった時点で抑うつ、不安神経症、自傷行為を経験することが多いことも報告されています。(Bowes et al. 2014).
イジメ被害者、加害者、どちらがよりリスクの高い将来を歩むのか
家庭内いじめで子供が取る役割は複数あります。一つが「いじめのみ」タイプです。この場合、いじめることはあっても、他からいじめられることはありません。
次に「被害のみ」タイプもいます。この場合、イジメに逢うことはあっても他人をいじめることはありません。
最後に、「いじめと被害」タイプです。この場合、家では立場の弱いものをいじめることはあっても、学校など他に場面ではいじめられることがあります。
この三種類の中でももっとも将来的に精神的なリスクが高いのが「いじめと被害」タイプです。(Wolke and Samara 2004). このタイプは、他の二つに比べて向社会的ではないことが分かっています。つまり、反社会的な行動が目立つ可能性や不適切な社交性が目立つ可能性がもっとも高いということです。(Wolke and Samara 2004).
自閉症スペクトラムだとどうなの?
ASDの場合、そうでない子と比べて学校などでのいじめ被害に遭いやすい傾向にあります。(Cappadocia et al. 2012; Little 2002; Sterzinget al. 2012; van Roekel et al. 2010)
このいじめの遭いやすさは家庭内でもある程度反映されていると考えられます。ASDが家庭内でイジメに遭いやすい理由としては以下の通りです。
一つは、コミュニケーション能力の困難から意思の伝達がうまくいかず、周りからイジメとの対象とされやすくなってしまうことが挙げられています。(Cappadocia et al. 2012)
二つ目に、家庭内にASDが一人でもいる場合、その家庭全体に自閉症スペクトラムの傾向がある可能性が高いことが数多くの研究で示唆されています(Constantino et al. 2006; Toth et al. 2007; Stoner et al. 2007)。この傾向は親子間でも同様の指摘がされています。(Dawson et al. 2007)。結果的に、未診断のASDが親、兄弟など家庭内にいることによりお互いがお互いのコミュニケーションの困難を乗り越えられず家庭内いじめへと発展する可能性があります。
三つ目に、ASDの兄弟などがいる場合、定型発達の子供たちと比較して問題行動が多いことも報告されており(Bagenholm and Gillberg 1991; Verte et al. 2003)、それにより兄弟間の喧嘩やイジメへと発展する可能性があります。
最後に挙げられる理由として、ASD の男子であれば定型発達の子供と比べてとても強く反応、反抗することがあり(Kaartinen et al. 2014)、そのような反応がイジメや喧嘩へと発展する可能性があります。
実際、ASDの兄弟をもつ定型発達の子供への数多くのインタビューから分かっていることは、インタビューに答えた子供のおよそ半数が「どんなことでも相手の反応が過剰で乱暴だった。」と回答したと報告されています。(Ross and Cuskelly 2006)
ASDは「いじめと被害」タイプになりやすい
Toseebらが行なった分析によるとASDの場合以下のことが分かりました。
・ASDはそうでない子供と比べて「いじめと被害」タイプになりやすい
・女子は男子に比べて「いじめのみ」タイプになりにくい
・低所得層で育った場合、高所得者と比較して「いじめのみ」タイプになりやすい
・2〜3人の兄弟がいる場合、一人の兄弟がいる場合よりも「被害のみ」あるいは「いじめと被害」タイプになりやすい
・しつけが厳しい、あるいは体罰などを採用している家庭の場合、そうでない家庭と比較して「いじめのみ」「被害のみ」「いじめと被害」のどのタイプにもなりやすい傾向にある
・歳の離れた兄や姉がいる場合、「被害のみ」タイプになりやすくそれ以外のタイプにはなりにくい
まとめ
・自閉症スペクトラムだと、兄弟からのイジメに遭いやすい。
・ASDは、将来的に最もリスクが高い「イジメと被害」タイプになりやすい。
・家庭のしつけが厳しいと、ASDは家庭内いじめと関わることが増える。
・12歳までにいじめられていたら、18歳の時点で自傷行為をしている可能性がある。
参考文献
The Prevalence and Psychopathological Correlates of Sibling Bullying in Children with and without Autism Spectrum Disorder.
Toseeb U, McChesney G, Wolke D.