自分と仲が良い人には優しくしたり、ある程度融通をきかせることがあります。子どもも同じで、早ければ3歳になる頃には、すでに自分の仲間とそうでない人たちを区別して、態度や優しさを変えることが分かっています。
つまり、その日に出会って仲良くなったAグループのメンバーには優しくしたり、困っている仲間がいれば手伝うことがあっても、自分の所属していない別のグループには、そこまでの義理を感じていないので必要以上に手助けはしないということです。
自分が所属している集団の成員は、外集団の成員に比べ、実際には優劣の差がないにもかかわらず、人格や能力が優れていると評価することを心理学用語で「内集団バイアス」あるいは「内集団ひいき」と呼びます。
これが行きすぎると、自分の集団に対しては望ましい行動をとりますが、外の集団に対しては望ましくない行動を取ることが増えます。最終的には区別から差別などにも発展し、場合によっては過激な行動への誘発要因ともなります。差別意識の改善は決して簡単ではなく、実際1980年〜2010年の間に子どもに対して行われた「人種間の偏見」を改善する数多くの研究で、改善策のうちの50%は効果が無かったと結論づけられてます。それどころか、10%は偏見を助長するような結果にさえ終わりました。
それでは、逆に自分の外の集団に対しても優しくなれる、区別なく誰にでも平等に対応して他者に親切な行動が取れるような子供に育てるにはどうすれば良いのでしょうか?
401人の子供に行われた心理実験
8歳から13歳までの子供を対象に、外集団に対して優しくなれるかどうかに関する心理実験を行いました。方法は以下の通りです。
子供たちを複数のグループに分けて、性別に合わせた内容で以下の話を読ませました。
「放課後、今日の掃除当番の【リサちゃん / マコトくん】があなたのもとへと駆け寄りました。
この生徒は【あなたの友達です / あなたの友達ではありません】。
どうやら、お母さんの身体の調子がよくないらしく、早く帰りたいので掃除を手伝って欲しいとのことです。」
Aグループの子供達にはこんな質問をしました。
質問1:「頼みごとをしてきたこの人はどれくらい悲しいと思う?怒っていると思う?」
選択肢: ‘あんまり悲しんでいない’(1) から ’とても悲しんでいる’(5)の五段階
質問2: この人を助けますか?
選択肢: ’ 絶対助けない’(1) から ’絶対に助ける’(5)の五段階
Bグループには、相手の感情については触れずに助けるかどうかだけ聞きました。
質問2: この人を助けますか?
選択肢: ’ 絶対助けない’(1) から ’絶対に助ける’(5)の五段階
たとえアスペルガーや軽度のASDであったとしても
実験結果がどうなったかというと、相手の感情について聞かれなかったBグループでは、自分の友達であった場合のみ助ける割合が多かったものの、相手の感情を予想した上で質問をされたAグループは、自分の友達かどうかに関係なく、ほぼ同じ割合で相手を助けることが分かりました。
そればかりか、アスペルガー症候群などASD傾向にあるような、心の理論の発達が遅れているか未発達の子どもの場合でも、この傾向は同じでした。つまり、行間を読んだり空気を読むのが苦手なタイプの子であったとしても、相手の気持ちの度合いを予想させるような質問を一つ挟むだけで仲間だろうが外部の人間だろうが関係なく助ける割合が高まったということです。
まとめ
・「この人はどれくらい悲しいと思う?」などで相手の気持ちの度合いを予想させることで無意識的な内集団バイアスや差別の予防に繋がる可能性がある。
・たとえ十分に心の理論や相手の立場に立って考える機能が備わっていなくとも、予想させることでとてもポジティブな効果が得られる。
・小さな子供であれば、ジェスチャーを使って悲しみの大きさをあらわし、視覚的に分かりやすくすることで理解を促すことができる
In-group bias in children’s intention to help can be overpowered by inducing empathy.
Sierksma Jより