早期教育が良いという風潮には果たして科学的な根拠は存在するのでしょうか。もしかすると、広く受け入れられているこの考えというのは教育業界のプロモーションによるもので、実際は子どもの発達と無関係なのではいか、そんな疑問をお持ちの方もいるかもしれません。
これについて、現段階で分かっている科学的な根拠などを解説していきます。
まず、子どもの教育にかけるお金が、将来どれだけリターンとなって帰ってくるのかをみてみましょう。教育にお金をかけるからには、それが無駄になるような事があってはいけません。「せっかく大金をつぎ込んでいろんな経験をさせたにもかかわらず、ほとんどそれに見合っただけの何かを得られないのでは勿体無い」と思うのは不自然なことではないはずです。
教育を投資と捉え、そのリターンを計算した研究があります。その研究によると以下のようなグラフになります。
この論文を発表したヘックマンによると、初めの数年で投資した教育費用は、1ドルにつき3ドルから9ドルの節約に繋がるとしています。つまり、投資した金額の3倍から9倍は健康、社会生活や犯罪絡みの費用を節約できるという事です。ですが、それ以降(6歳以降)は投資費用を回収できない割合が増えることを指摘しています。
ただし、これは2006年に発表された論文で、当時はワーキングメモリトレーニングはほとんど研究されていませんでした。現在は医療技術、新薬やサプリ、ワーキングメモリトレーニングやコーチングといった技術が発展してきていることもあり、子どもが大きくなってからでもある程度のやり直しが効くほどの可能性は十分にあるとも考えられます。
それぞれのエリアの特徴
それでは、グラフの内容を細かく見ていきましょう。
・青いエリアが0歳(胎児も含む)から3歳までです。
・その次が赤いエリアで、5歳までです。
・その次に緑のエリアで、小学校に上がってからとなります。
・最後に、紫が18歳以降となります。
0歳から3歳
青いエリアでは妊婦が適切な運動、栄養バランス、ストレスの少ない環境にある、タバコや酒を控える、危険な薬物などを使用しないということも含まれています。もしこれらが守られていなければ、生まれてくる子が発達障がい、あるいは脳機能障害を持つリスクが高まってしまいます。
もちろん生まれてからも重要で、ベビーマッサージであったり、スキンシップなども重要となります。こういった愛情をかける子育てが極端に少ないと、成長してから愛着障害や後天的な脳機能障害に悩むリスクが高まります。
つまり、子どもが生まれてから初めの三年はそれだけ重要で、逆に言えばここさえどうにか乗り越える事ができれば、発達の出だしは非常にスムーズとなります。
4歳から5歳
このあたりから数の概念を使ってワーキングメモリトレーニングに取り組む事が可能となります。この時期にトレーニングを通して脳機能を一気に伸ばしてしまうのがもっとも得策です。身についた絶対音感が消えないのと同じで、この時期に高いワーキングメモリを獲得してしまえばあとは高齢になってもまだその特長が残ります。どのように残るかというと、「認知的予備力」という形で残ります。この貯金が多ければ多いほど認知症になりにくい事も分かっています。
ここで重要なのが、ワーキングメモリや自己抑制機能などを高める取り組みをする事が、投資としての育児においてはもっとも費用対効果が大きい事です。実際、ワーキングメモリや自己抑制機能が高いグループとそうでないグループの追跡調査をした研究の結果によると、学力は同等であったにもかかわらずワーキングメモリなどが高かったグループの方が犯罪のリスクや病気のリスクが低い事が分かっています。
つまり、例えば単語を暗記させるなど、知識をたくさん詰め込むタイプの幼児教育は将来性の向上には向いていないという事が分かります。実際に鍛える必要があるのは、自己抑制機能やワーキングメモリといった数値化しにくい能力であるという事です。
6歳以降
この年齢でもまだワーキングメモリや社会スキルは鍛えられるので、そちらを軸に学校生活をエンジョイしてもらうのが良いです。コーチングも8歳頃から使えるようになるので、6歳以降はむしろ親がより深い知識を獲得して子どもの成長を見守る必要が出てきます。
以上の通り、子どもへの早期教育はワーキングメモリや自己抑制機能など前頭前野の機能を高めるためのものであれば、子どもの発達を良い方向へ引き上げると言うに足る科学的根拠があるという事が分かりました。