子どもが良いことをしたらご褒美をあげよう
みなさんは、子どもが何か問題のある行動を取ったら、どんな風に対応しているでしょうか。たとえば、友達が使っているオモチャを横取りした、弟を叩いた、物を投げた、通行人の邪魔になる場所にぼんやり突っ立っていた、などなど。おそらく、ほとんどの保護者たちは子どもを叱るのではないでしょうか。もちろん、軽い注意をするくらいで終わらせる人もいれば、とっさの出来事に思わず声を荒げてしまう人まで、その程度にはさまざまな違いがあるでしょうが、いずれにせよ何か子どもにはたらきかけて、態度を改めさせようとする人が大半だと思います。それでは、口で注意しても子どもの問題行動が消えない場合はどうしているでしょうか。何かペナルティ(罰)を加えているでしょうか。たとえば、遊びの時間を減らしたり、ゲームを取り上げたり、具体的な行動に出る人も決して少なくはないはずです。
このコラムでは以前の記事でも言及しましたが、子どもの問題行動を変えるには、まずは口頭で冷静に注意すること、それでも改善しない場合はタイムアウト(年齢×分数の間だけ別室で子どもをじっとさせる)というペナルティを与えること、という方法をご紹介しました。この方法は確かに効果的なのですが、それでも問題が起きた後の対処でしかありません。問題に先回りして注意やタイムアウトをすることはできません。仮に、たとえば「友達が使っているオモチャが欲しくなったときは、必ず“貸して”と言うんだよ」と先回りして注意することができたとしても、時間が経てば忘れられてしまうでしょう。
いずれにせよ、注意する、叱るといった対応は、事が起きた後でしか対応できないという欠点があります。たとえるなら、社会の治安を守りたくても、警察は事件が起きた後でしか動き出せないのと似たようなものです。このような対処だけでは、子どもは大人に怒られてばかりだし、大人も子どもを叱りつけてばかり、どちらにとってもストレスになるでしょう。怒られてばかりの子どもは、自己評価が低くなりがちです。それは避けるべきです。
これら注意や叱責の欠点を埋めるために、今回の記事では「ご褒美」という戦略を紹介します。
ご褒美シールを使ってみよう
「ご褒美」という言葉だけを見ると、何か特別なプレゼントに思えるかもしれません。しかし、実際は子どもが何か良い行いをした時に、シールをノートやメモ帳などに貼るだけでよいのです。子どもがまだ幼い未就学児であれば、シールを貰えること自体が魅力的に見えるでしょう。小学生であれば、決められた枚数だけシールを集めると、何か別のご褒美が貰えると目標を決めておけば良いのです。
ただし、この「ご褒美シール」は、あらかじめルールを決めて守らないと、きちんと効果を発揮できません。大人がその時の思いつきでシールを与えたり与えなかったりといい加減な態度で行うと、子どもは何が「良い行い」なのかを覚えられなくなってしまいます。それに、ルールを決めないと、子どもだけでなく大人も、この習慣を維持するのが大変になってくるでしょう。無理なく続けられるものでなくてはならないのです。
ルール1:何が「良い行い」なのかを具体的に決める
たとえば、友達の使っているオモチャを横取りしてしまうというのが、改善した問題行動だったとします。そしたら、「友達のオモチャを取らない」とルールを決めたくなりますが、それはあまり具体的な指示とは言えません。このルールでは、子どもは我慢を強いられるだけで、自分はどうしたらいいのかが分からないままになってしまうからです。そうではなく、「友達が使っているオモチャが欲しくなったときは、必ず“貸して”と言う」といった具合に、望ましい態度を具体的に示す必要があります。
「オモチャを使って遊んだあとは、オモチャ箱に片付ける」
「外から帰ったら手洗い・うがいをする」
「授業中に問題の答えが分かったら、手をあげて先生に呼ばれるのを待つ」
「兄弟ゲンカをしたら、必ず“ごめんね”と謝る」
このように、望ましい行動が具体的であればあるほど、子どもには伝わりやすくなります。最初は保護者が一覧表を作っておくとよりよいと言えます。出来るだけ望ましい行動は小分けにする必要があります。というのも、ADHDの子どもたちにとっては、長時間の集中が難しいので、一度にたくさんの事を習慣づけるのは難しいからです。そして、子どもが「良い行い」をしたらすぐに褒めてシールを貼りましょう。注意される時と同様に、大人がすぐに気づいて褒めることが肝心です。とりわけ、子どもが幼い場合やADHDの場合は、長く複雑なことほど集中する事が困難になります。時間が経ってしまうと、子どもはたちまち別の何かに興味がそれてしまうので、それに先回りして保護者が対応する必要があるのです。理屈ではなく、瞬時に身体で体感できるようにした方が成功体験としての記憶も強まり、子どもは達成感が得られ、承認欲求が満たされるはずです。
ルール2:効果的なご褒美を決める
子どもがまだ低年齢であれば、シールを貼り付ける事だけで十分楽しい「ご褒美」になるので、他に特別な事をする必要はありません。少し話がややこしくなってくるのは、子どもが小学生以上の場合です。この場合は、シールを10枚集めたら何か景品と交換できると最初に決めておくのが良いでしょう。たとえば、大手学習塾では、宿題をやってきた生徒や、授業中に自分から手を上げて答えられた生徒にはシールが配られます。そして、何十枚か集めると、ノートや鉛筆と交換できるというルールになっていました。景品にはいくつか種類がありましたが、どれも特別に高額な品物ではありません。重要なのは、「ご褒美」の豪華さではなく、子どもが「自分の良い行いのおかげでご褒美をもらえた」としっかり実感できることなのです。だからこそ、「ご褒美」は具体的な物であればあるほど良いのです。
逆に言うと、「ご褒美」が抽象的だったり、複雑、曖昧な内容の場合は、子ども自身に分かりやすい達成感を与えることも難しくなりますし、保護者も続けるのが面倒になってくるはずです。たとえば、「ゲームを30分やってもいい」という「ご褒美」に決めたとしたら、まず30分の時間を計測するのが面倒ですし、終わる間際に子どもが不機嫌になるなど、トラブルが起きるリスクが高くなります。子どもの日頃の行動や好みを十分に観察し、保護者が無理なく続けられる「ご褒美」を決めましょう。
ルール3:子どもの努力を褒める
仮に家庭で「ご褒美」システムを実践したとします。その時に起こりがちなのは、このシステムがうまくいかなくて、子どもよりも先に保護者が焦りはじめてしまう事です。しかし、新しいルールを持ち込んだのですから、最初はうまくいかなくて当然なのです。子どもによっては、一時的に問題行動が悪化する子もいるほどです。
保護者は、子どもがたとえ「望ましい行動」を取れなかったとしても、その素ぶりが見えた時などは、努力を褒めてあげましょう。出来ないことを責めてしまったら、子どもの意欲は低下する一方です。「ご褒美」システムによって伸ばしたいのは、子どもの自発的な意欲であり、自己評価を高めることです。
まとめ
一般的に「しつけ」という言葉を聞くと、何か厳しい訓練のようなやり取りをイメージする人は多いのではないでしょうか。その一方で、「ご褒美」という言葉からは、あまり良いイメージを描けない人も少なくはないかもしれません。これは、日本の教育が持つ傾向として、良いところを褒める加点方式よりも、悪いところを見つけて反省する減点方式が強かったためではないでしょうか。特に古い世代になればなるほどこの傾向は強くなり、ご褒美はもちろんのこと、褒める行為自体にさえ良い顔をしない人は増えると思われます。
しかし、「ご褒美」も効果的で論理的な「しつけ」の一部です。先にも説明した通り、抽象的なこと、曖昧なこと、長い時間の集中を必要とすること、といった活動は、幼児やADHDの子どもには難しいことです。大人はつい自分たちの尺度で「それくらい出来て当然」と思い込みがちですが、子どもにとっては小さなことも大きな努力を要すると考えれば、彼らを褒めて認めてあげる態度を、私たち大人はもっと積極的に見せるべきではないでしょうか。