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競り合わせることはいいこと?悪いこと?

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教育者として悩むことの一つが、「競争を教育に持ち込むべきか否か」ではないでしょうか。

 

現在の風潮としては「競争」ではなく「みんなで頑張ろう」という流れがあるように感じます。これは、科学的な観点からみてどこまで正しいのでしょうか、それとも、違う場合もあるのでしょうか。

 

ピアエフェクト

 

教育者によっては、ほどよくライバル心があるグループはお互いに切磋琢磨をし、勝ったり負けたりを繰り返しながらいつのまにか平均よりも高い能力をグループ全体が獲得することがあります。こういった場面を数多く経験している教師であればあるほど、「競争のない教育」に対する疑問が強まるのも不思議ではありません。

 

実は、「切磋琢磨してお互いに勝ったり負けたりを繰り返しながら高め合う」という状況は、厳密に言えば「競争」ではありません。これはピアエフェクトと呼ばれる現象です。

 

ピアエフェクトとは、周りの仲間から影響を受けることを言います。これは良い方向にも悪い方向にも進むので注意が必要です。

 

例をあげて説明します。

 

同じ遺伝子をもつ双子がいたとします。AさんとBさんは生まれも育ちも5歳までは同じです。顔も癖もそっくりで、学力も同じです。双子は貧しく治安も決して良くない地域に住んでいました。

ある時、双子の親は食いぶちを節約するために、Bさんだけを金持ちの夫婦に養子に出しました。

 

そのため、5歳以降は、Aさんは貧困層に留まり、Bさんは富裕層の人が多い地域で暮らしました。

 

さて、二人は20年後どうなったでしょうか。Aさんは、治安が悪い地域性や悪友などの影響を受け、高校は中退し定職に付いていません。一方で、上流階級の仲間入りを果たしたBさんも初めは戸惑いましたか、数年も経つ頃にはすっかり馴染んでシリコンバレーで仲間たちと共に起業しています。

 

AさんとBさんは遺伝子が全く同じなので、もし成長に差が出たとしたらそれは遺伝ではなく環境が大きな役割を果たしたと言えます。

 

解説

 

何が起きたのでしょうか。

 

Aさんの社会的ステータスは環境や仲間によって大きく影響を受けました。上昇志向をそれほど持っておらず、その日その日過ごせたらそれで良いといった考えを持った仲間が周りにいるのが普通でした。

 

しかし、Bさん場合、周りの人たちは向上心が強く意識も高いので、自堕落で目先の欲に釣られることはほとんどありません。Bさんは当時5〜6歳だったこともあって、まだ成長に大きく差が開いていないことが功を奏し、どうにか周りの人々に追いつくことができました。それから毎日お互いが切磋琢磨しあうような関係をもち、常に良い意味での小さな「競争」がある環境で育ちました。

 

ここから何がわかるのかというと、仲間の影響は良い方向にも悪い方向にも向かうことがあるということです。

ただし、注意すべきなのは、実力差がありすぎると逆効果でモチベーションは下がります。常に、ほどよく似たレベルの人たちが集まって、お互いに切磋琢磨しあうのが理想的なのだということです。

 

コーチングにも同じことが言える

 

先の双子の話は、コーチングの観点からも説明がつきます。

 

貧困街に育ったAさんは、周囲の影響によって、無意識のうちに心地よいと感じる生活空間のレベルが低くなっており、それに合わせて自己評価も下がっていたと考えられます。つまり「コンフォートゾーン」が低かったのです。コンフォートゾーンとは、自分が心地よいと感じる心理的な活動範囲のことです。コンフォートゾーンは、低ければ低いほど自尊心も低く、活動範囲も狭いと考えられます。

 

逆に、Bさんは最先端のIT技術が集結するシリコンバレーで仲間たちと起業しています。おそらく、Bさんは普段から堂々と話し、いろんな人と交渉をし、数百人の前でも物怖じすることなくプレゼンテーションができるようになっているはずです。世界各国を飛び回り、インターネット上に顔や名前を出して情報発信などもしています。これは、コンフォートゾーンが非常に大きく広いことを表しています。つまり、自尊心(自己評価)の高さゆえに、世界のどこにいても常に堂々としていられるのです。

 

これがもしもAさんだったら、ネット上に顔を出して情報発信をしようとも思わないでしょう。世界を飛び回ってスマートに交渉をする、プレゼンテーションをすることもしません。自分に自信が持てないのでとてもじゃありませんがそんなことはできません。

 

なぜでしょうか。

 

Aさんは、低いコンフォートゾーンを保ちながら、低いコンフォートゾーンをもつ仲間たちに囲まれて育ってきました。すると、そこが心地よいのでわざわざコンフォートゾーンから飛び出そうとしません。現状を維持したがります。

 

一方で、Bさんは自分よりも広く高いコンフォートゾーンを持つ集団に囲まれて育ちました。自分のコンフォートゾーンは引き上げられ、お互いにコンフォートゾーンを高め合う。一人が現状から抜けてさらに大きなコンフォートゾーンを作ると、周りも我先にとコンフォートゾーンを一番大きい人のそれに揃えていきます。Bさんたちは延々とその作業を繰り返しました。結果的に、Bさんのコンフォートゾーンは世界レベルに通用するまでに大きな広がりを見せるのです。

 

まとめ

 

ピアエフェクトとは、一見すると「競争」のようにも見えます。ですが、実際はお互いにコンフォートゾーンを引き上げあっている状態が繰り返されていることを言います。

 

ただし、実力差があまりにも大きいとコンフォートゾーンはお互いに反発してしまいます。となると、実力が似た者同士が集まって常に試し合うような環境が最適であると言えます。

 

良くないのが、むやみやたらと毎回知らない人同士が寄せ集められて「競争」させられることです。実力はあまりにバラバラで、継続して繋がっていられる仲間でもないので良いとは言えません。

 

つまり、「競争」にはお互いの実力を高め合うような良い環境や人間関係という意味での「競争」もある、ということです。

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