現代社会に生きる子どもたちは、さまざまな電子機器に囲まれて生活しています。彼らには、スマートフォンやパソコンやタブレットが存在しない世界など想像できないでしょう。
こうしたテクノロジーの進歩は、子を持つ親たちにとっては「どうやって(どのくらい)子どもが画面を眺める時間を制限するか」という問題に向き合わなければならない、ということも意味しています。
パソコンなどといった電子機器は、インターネットを通じて、ありとあらゆる娯楽を持ち主に提供します。もちろん、娯楽に限らず教育目的のコンテンツもあるでしょう。しかし、際限なくそうした情報に触れ続けることは、時として子どもの発達に悪い影響を及ぼす可能性があるのです。
アメリカの小児科学会は、子を持つ親たちに対して、電子機器を用いた娯楽メディアの使用時間を適度に制限することを進めています。ところが、そうした専門家による勧めがあるにも関わらず、アメリカ社会の子どもたちがテレビやインターネットに触れている時間は、決して短いとは言えません。たとえば、2010年の調査によると、8歳から18歳の未成年者たちがテレビやインターネットに触れている時間は、1日あたり平均で7時間半にも及ぶことが明らかになっています。
しかしながら同時に、問題は子どもたちに限った話ではないことに注意しなければなりません。テレビやスマホ、パソコンなどを使った娯楽に触れる時間が長すぎるのは、何も子どもだけではないのです。多くの親たち自身もまた、健康的にテレビやネットの使用時間を制限しようと奮闘しなければならないのが現実です。というのも、同じ調査で、大人たちは1日あたり平均で11時間もスクリーンの前に居ることが明らかになっているからです。
テレビやインターネットに触れる時間が長すぎると、どのような悪影響が出てしまうのかは、子どもだけでなく家族全体の問題として考えることが大切になります。
テレビやパソコンの使いすぎは、具体的にどのような悪影響をもたらすのか
たとえば、暇な時はずっとテレビをつけている。あるいは、パソコンの前にずっと座っている。しょっちゅうスマホをいじっている…。こういった行動に身に覚えはありませんか?何時間もスクリーンの前で画面を眺め続けることでもたらされる悪影響は、目が疲れるとか、視力が落ちるかもしれないといった単純なことにはとどまりません。
それでは、具体的にどのような悪い影響が出るかを、以下に挙げていきましょう。
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肥満
ソファに座ってテレビを見続けること、あるいはテレビゲームで長時間遊んでしまうこと。こういった生活スタイルは運動量の低下につながり、結果として体力の低下と体重増加が起こりやすくなります。
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睡眠障害
眠る前にスマホでSNSなどのコンテンツをチェックしたり、あるいはテレビ番組を見たり、インターネットで動画を閲覧する人は、決して少なくないでしょう。そして、彼らの多くはリラックスする目的でそういった行動をとっているはずです。しかし、眠る前のテレビやスマホの使用は「リラックス」とは真逆の効果をもたらします。
テレビやパソコン、スマホから発せられる光は、人間の脳に備わったナチュラルな睡眠サイクルを崩してしまう副作用があります。そのため、寝つきが悪くなったり、ひどい場合には不眠症にもなりかねません。
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学力低下
アメリカで行われた調査によると、自分の部屋にテレビが置いてある家庭環境で育っ た子どもは、そうではない子どもに比べて学力が低いとの結果が出ています。
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暴力的な言動・行動の増加
アメリカの青少年精神医学会によれば、暴力的なテレビ番組や、映画、音楽、テレビゲームなどに慣らされてしまった子どもたちは、現実社会での暴力に対する抵抗感を弱めてしまう危険性があると言われています。彼らは、テレビや映画で見た光景を真似したり、暴力によって問題を解決するようになるかもしれないのです。
5. 過刺激
素早く切り替わる映像を見続けると、そこから目が離せなくなってしまいます。こ れは子どもに限った話ではなく、大人も同じです。しかしながら同時に、子どもの 方が未発達な脳をしているために、余計に刺激に弱く、影響を受けやすいという点 に注意しなければなりません。
強い刺激に晒されることに脳がマヒしてしまうと、常に強い刺激がなければ落ち着 かない状態になりやすくなります。すると、刺激の少ない普通の生活の中に置かれ た子どもは、多動、粗暴、集中力の低下といった問題行動を抱えるようになってし まいます。
スマホが親子関係を悪化させる?
インターネットやテレビの見過ぎによって引き起こされる様々な問題は、これまで、主に子どもを対象にした議論ばかりが盛んに行われてきました。しかしながら、子どもの身の上に起きるかもしれない危機は、同時に大人の身の上にも起き得る問題だということに注目しなければなりません。たとえば、先に挙げた肥満や睡眠障害といった症状は、子どもの身の上にしか起きないことでしょうか。大人も同様のリスクに晒されているのです。
さらに深刻なことには、たとえ親自身がテレビの見過ぎやスマホのいじりすぎによって健康上に問題を抱えていなかったとしても、子どもとの関係には悪影響が出ることに注意しなければなりません。
ある調査によれば、3人に1人の子どもたちは、一緒に遊んでいる時や食事中に親がスマホをいじる姿を見ることで、不安が増すと報告されています。それが、たとえ仕事上で必要な短いメールのやり取りであったとしても、子どもの視点から見れば、自分が大切にされていないように感じてしまうのです。要するに、親がスマホをいじっている姿は、子どもの目には「あなたよりもスマホを見る方が優先順位が高いのだ」という態度に映るのです。
子どもと一緒に過ごす間、親がスマホにしょっちゅう邪魔されるような態度を取っていると、子どもの発達や心身の健康に悪影響をもたらすのです。その例として、子どもが抑うつを抱えやすくなったり、不安を感じやすくなるといった症状があります。
家庭でテレビやインターネットを制限するルールを決めよう
子どもには、長時間テレビを見続けたりテレビゲームで遊ぶことは健康によくないと説明するとよいでしょう。そして、子どもだけにルールを強制するのではなく、大人もまた子どもたちの良い見本となれるよう、スマホやネット、テレビを眺める時間を健康的に控える姿を見せるようにしましょう。
たとえば、食事中、車での移動中、寝室、といった場所や場面でテレビをつけてもよいのかどうか、スマホをいじってもよいのか。あるいは、単純に「10時以降はどうするのか」「家族全員が居間に揃っている時は」「土曜の夜は」などシチュエーションを想定してみてください。なんとなくテレビをつけて暇を潰している時間はありませんか。本当にスマホやパソコンを開いていなければならない理由はあるでしょうか。
特に、親子が一緒に過ごしている間は、他のことをしてコミュニケーションを取るべきです。子どもに安心感を与えるという役割は、家事や仕事に比べてさほど重要ではないように見えるかもしれません。しかし、長期的な視野を持って考えると、親が子どもから信頼され、心を開ける場所であろうとする姿勢を積極的に見せ続けるのは、とても大切なことになります。それが欠けてしまうと、いずれ子どもは「自分に無関心な大人」に対して心を閉ざしがちになり、何か問題を抱えていても相談できる相手を得られず、自分で自分を追い込んでしまうことになりかねません。
子どもの脳の発達、身体の健康、精神の健康をより良い方向へ導くためにも、今一度、日常生活のスタイルを見直してみましょう。