前回の記事
権威主義的な子育ては、子どもたちを不安に陥りやすくし、自己評価を低め、鬱にさせるのでしょうか。おそらくは、そのリスクが高いと言わねばなりません。
たとえば、中国で双子を対象に行われた行動遺伝学の研究では、権威主義的な父親に育てられた子どもたちは、そうではない養育環境で育てられた子どもたちに比べ、精神疾患を抱える割合が増えました。たとえ、遺伝的な素質を考慮に入れたとしても、なお育児の仕方が後天的に悪い影響を及ぼすことが明らかにされたのです。
他にも、同じく中国の研究によれば、権威主義的なしつけは、子どもが自己抑制機能にトラブルを抱えていた場合、うつ病になるリスクが高まると報告されています。また、愛情不足な親のもとで育った子どもたちは、感情のコントロールが苦手な傾向があるとも結論づけられました。
権威主義なしつけと感情のコントロールに関係があることについては、アメリカにも同種の研究があります。行動遺伝学の研究は、権威主義が、成長後の子どもたちに主な精神疾患を患うリスクを高めていると報告しています。
加えて、アメリカの青少年に対する調査では、幼少期に、親に権威主義的な育て方をされたと認めた者たちの方が、抑うつ症状などに悩まされていると示しています。母親が権威主義的な方法で子供をしつけようとすればするほど、子どもたちの精神面に症状が現れやすくなるのです。
似たような報告は、中国とアメリカだけに止まりません。以下に、同種の調査結果が報告された国とその具体例を挙げていきます。
・地中海の国々では、権威主義的な親に育てられた子どもたちは、威厳のある子育てで養育された子どもたちに比べて、鬱の症状に苦しんでいるとの報告があります。
・スペインとブラジルの青少年を対象にした調査では、権威主義的な家庭で育てられた子どもたちは、その他の養育環境で育った子どもたちに比べて、自己評価が低いことが分かっています。
・ドイツの研究では、権威主義的な親に育てられた子どもたちは、不安を抱えやすい性格に育つことが分かりました。さらに、彼らは離人症の症状を抱えることも多いのです。
(※離人症とは、自分自身の行動を自分が離れたところから観察しているような、現実感の薄れた状態で、解離性障害の一つに分類されている)
しかしながら一方では、子どもの精神疾患や感情障害と、権威主義的な養育環境には必ずしも因果関係はないとする研究結果もあります。たとえば、アメリカで行われたいくつかの研究では、寛容な親に育てられた場合と、権威主義な親に育てられた場合とで、子どもの情緒面の発達に、違いを見つけることができませんでした。
同様に、中東での青少年を対象にした調査でも、権威主義的な教育と、たとえばうつ病のような子どもの精神疾患の間に関連を見つけることはできなかったのです。
なぜ、このような矛盾した結果が出るのでしょうか。
その疑問は、おそらく「権威主義」の内容について、無情さや厳罰的な対応や冷たさに注目すれば、明らかになるのかもしれません。たとえば、体罰は子どもたちに不安や抑うつといった感情障害を抱えさせるリスクを高める、といくつかの研究で明らかにされています。
また、文化の影響も考慮しなければなりません。仮に、権威主義的なしつけを受けて育つことを、子ども自身が「普通のこと」ないしは「社会で当たり前のこと」と了解していた場合は、そのしつけから受けるストレスも軽減すると考えられるのです。
学校生活での影響
実験調査によると、権威主義的な教育は、学習の妨げになると言われています。というのも、子どもの失敗に対して、大人が「失望した」、「あなたは出来ない子だ」といったようなネガティヴな評価を与えてしまうと、子どもは失敗したり、それによって恥をかくことを恐れ、より消極的に行動するようになるからです。
さらに、人は、ネガティヴな反応をもらうよりも、ポジティヴな反応をもらった時の方が、より学習意欲が高まり、積極的に学ぼうとする姿勢をもつことができるのです。
また、別の調査では、権威主義と学校での成績の悪さに相関関係を認めるものもあります。
たとえば、サンフランシスコにおける青少年を対象にした調査では、どのエスニシティに属しているかによらず、権威主義的なしつけと子どもたちの成績の悪さには相関関係があることが分かりました。似たような結果は、他の研究でも報告されています。
しかしながら同時に、貧困家庭でも、権威主義的なしつけと他のしつけ方の間で、子どもたちの成績に違いを見つけることは出来ませんでした。つまり、経済的に貧しいと、養育の仕方が違っても、子どもの発達には差が出ないとも言い換えることができます。
それどころか、親の学歴が低い家庭の子どもたちの方が、権威主義的な家庭で育った子どもたちよりも学校の成績が良かったという結果もあるほどです。
その他にも、中国の伝統的な家庭で行われる権威主義的な教育のあり方も、議論の題材になるでしょう。
北京と台湾では、権威主義的な教育は子どもの学力低下と関係があるとされています。一方で、香港とアメリカに移住した中国人の間では、権威主義的な教育は子どもの学力を高めることと考えられているのです。
この矛盾点については、複数の可能性が示唆されています。
・スラム街などの危険な地域で生活している青少年にとっては、その地域のリーダーなどといった、権威のある者に従うことを疑わないで育つことが多い。学校の中であろうと外であろうと、貧困層の子どもは疑わない従順さを身につけている場合がある。
・仲間内での同調圧力によって、権威主義的なしつけが浸透する。そのグループが、学校の勉強を後押しするように働きかけることもあれば、学習意欲を削ぐような影響を及ぼすこともある。たとえば、アメリカに住むアジア人グループは、奨学金を得られるよう助け合う活動をしていることが多い。また、アジア系の子どもたちは、親が権威主義的な教育をしていようとも、学校での素行が良い。一方、アフリカ系の子どもたちは、そんな素行の良い子どもをグループから追い出してしまうような関係性を築いている。彼らは親が厳格であっても、学校での素行は悪い傾向にある。
・「権威主義的な教育」と言っても、その内容は文化によって異なる。たとえば、中国とアメリカでは同じ権威主義でも全く別のしつけ方をしている。中国では、たとえしつけが厳しくても、子どもと密接な関係性を築くような関わり方をしている。この親密さは、子どもに勉強する気力を起こさせるものであり、彼らの学業面での成功を後押ししている。
とはいえ、権威主義的な教育は、やはり子どもを優秀な生徒にするという考えに対しては、疑いを持つべきでしょう。というのも、実験的な調査の結果だけでは、説得力としては不十分だからです。さらに言うならば、数学にせよ化学にせよ、またあらゆる他の学問においても、肝心なことは批判的に物事を考える力だからです。何も考えずに命令に従い、強い者に押さえられて服従するのではなく、疑うことも必要になるのが勉学の要になるからです。
まとめ
子どもに失敗を許さず、罰を与え、ルールの根拠も説明せずにとにかく従わせること。それが、権威主義的な教育の特徴です。こうした躾けに頼る親たちは、しばしば自分たちを最も倫理観があると思い込んでいます。ですが実際のところ、そんな養育を受けてきた子どもたちは、自己抑制が低く、倫理観が欠落しているというのは、先に説明した通りです。
実際、成長後の彼らは親の指示を無視するようになるのです。彼らは、権威主義に頼る親に口を閉ざしがちになり、繰り返し非行に走る例も少なくありません。
もしも、自分の躾け方が子どものその後に影響を及ぼすとしたら、子どもの自己評価が高まり、勉強への意欲が湧いてくるような方法を選ぶことをおすすめします。