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子どもの発達と感情のコントロール能力が将来性を大きく変える その1

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 自分自身の感情を上手にコントロールすることは、子どもの発達にとても重要な力になります。この感情のやりくりは、専門的な表現をすると「感情制御」や「情動調節」と呼ばれています。今回のコラムでは、感情を調節する力が発達にどれだけ深く関わっているか、そのことについて説明します。

 人は誰しも、生まれた時から「感情制御」の能力を備えているわけではありません。私たちは、振り子のように激しく揺れ動く感情の制御の仕方を、成長していく中で学ぶのです。したがって、特に子どもたちが自力で自身の感情と向き合い、正しく付き合うコツを掴むまで、大人たちからのサポートはとても重要なものとなります。

 果たして、感情の自己制御とは、どのように発達するのでしょうか。そして、私たち大人はどのようにして、子どもたちがその力を獲得するのを手伝えるのでしょうか。

 

感情制御、心の理論

 

 感情をコントロールするためには、自分の置かれた状況を正確に理解して、その場に合った感情をあらわす力が必要になります。

 この時、「その場に合う感情」とは、“悲しみ”や“怒り”といったマイナスの感情を抑えて、“喜び”などと行ったプラスの感情を無理やり増やさなければならない、という意味ではありません。

 たとえば、子どもが何か痛い思いをしている時、親は自分自身の“悲しい”という気持ちを抑えて、“共感”を示すことで、子どもの助けになろうとします。

 よって、「その場に合う感情」というものは、必ずしも自分自身が率直に感じたまま、“ありのままの気持ち”を意味するわけではありません。

 

 もうひとつ、感情制御の力を身につけるためにとても大切になるのが、「心の理論」と呼ばれる力です。

 心の理論とは、他者の感情を読み取る力のことです。他の人の感情を推測し、理解することで、自分自身が次にどんな振る舞いをするべきかの判断を、スムーズにするための力です。より馴染みのある表現にするならば、「人の顔色をうかがう」とか、「空気を読む」といった言葉にも言い換えられるでしょう。他の人が何を思っているか、自分がいる今この場所は、どのような振る舞いがふさわしい状況なのか、そういったことを考えた上で、時には自分自身の本心を抑えて、場の雰囲気に合った態度を取ること。それができれば、より問題解決は簡単になります。つまり、トラブルの少ない社会生活を送れるのです。

 この能力に長けている人は、自分自身の感情をコントロールする力だけでなく、他者の感情に影響を与える力も大きいと言われています。

感情の自己制御の大切さ

 

 心の理論を身につけるためには、まずは感情を自己制御できるようになることが第一優先になります。とはいえ、感情制御は、それだけでは私たちの生活を豊かにするために最も重要なこととも言い切れません。なぜなら、感情の制御は、生活のあらゆる場面に広く必要とされる力であるため、他のさまざまな要素との関わりが深く、私たちが身を置く日常的な場面を抜きにして、感情制御の方法だけを語ることはできないからです。

 

家族関係

 

 感情制御と関わりの深い日常的な場面としてまず最初にあげられるのが、家族関係、特に親子関係です。とりわけ、自分の感情をまだうまくコントロールできない子どもが起こす“かんしゃく”は、親と子の間に重い負担となってのしかかるものです。

 

仲間関係

 

 感情制御の能力を身につけ損なうと、子どもの人格はあまり好ましくない方向へと成長します。怒りっぽい、攻撃的、イライラしがち、内気、などといった性格は、子どもが将来社会で生きていくために処世術を身につける際の障害となります。

 感情のコントロールがうまくないと、まず幼少期では、友人を作ることに難しさを抱えるようになります。過去数十年の研究結果が示すところによれば、仲間や友達を作り、その中で人間関係のあり方を学ぶことは、子どもの発達にとって非常に重要であると分かっています。 

 たとえば、友人からの孤立は、学校の中退、非行、精神疾患、薬物依存などへのリスクを高めます。また、孤立した内向的な子どもは、いじめのターゲットになりやすいという危険もあります。

 

 集団からの孤立は、やがて社会への不適応となって大人になっても苦しむ可能性さえ出てくるでしょう。したがって、感情制御の術を身につけないということは、自分から仲間や豊かな人間関係を遠ざけてしまい、不適応を引き起こすリスクが高めていることになるのです。

 

感情制御が及ぼす良い影響

 

 それでは、感情制御の力をうまく身につけられた場合はどうなるのでしょうか

 感情制御は、とくに学問の場面で、より高い能力を発揮するための基礎体力になります。というのも、感情をコントロールする力が高ければ高いほど、イライラなど余計な感情に邪魔されることなく、勉学に集中することができ、好成績を出せるようになるからです。このように、感情の自己制御がうまくできる学生は、高い注意力と問題解決力を持っているのです。

 また、感情制御の力が高いと、より長期的な目標を達成する力もつきます。というのは、その場の欲求を抑えて計画的に行動する力が高いからです。

 

回復力と心の健康

 

 感情制御の効果的なところは、子どもにより高いストレス耐性を身につけさせることができる点にもあります。家庭や学校などで悩みを抱えたり、困難にぶつかった場合、感情制御がうまくできれば、その子は自分自身を回復させ、心身の健康を失わずに済む可能性が高くなります。

 逆に言えば、心療内科への受診が必要になるほどの心の問題を子どもが抱えている場合、それは、彼らの感情制御の力の低さと深い関わりがあるとも考えられます。

 たとえば、感情のコントロールを失った子どもに最も一般的に現れる行動障害のひとつとして、「反抗挑戦性障害」があります。それ以外にも、不安障害、摂食障害、うつ病のリスクも大幅に高めるリスクがあるのです。

 

より良い人生

 

 感情制御がうまくできるようになった大人と、自身の感情をうまく調節できない大人では、仕事や幸福に対する満足度にも差が出ています。

 このように、感情制御は人の一生にわたって密接に関わるものであるため、専門家たちは、感情制御が子どもの発達にとって非常に重要であることも認めているほどです。

 

次回は、感情制御についてより科学的な視点から見ていくことで、発達段階の子どもにどうやって身につけさせるのかを説明していきます。

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