facebook

「自閉症は生まれつきだから改善できない」というデタラメに踊らされる人たち

カテゴリー:, , , ,

発達障害は治らない、改善できないという風潮が未だにちらほら残っていると実感することがあります。例えば、「冷蔵庫マザー」という言葉に対する記事の締めくくりに「発達障害は生まれつきだから、親に愛情があろうがなかろうが改善できないものはできない」とするものなどです。

 

冷蔵庫マザーとは、ハグや抱っこなど、母親が体温を赤ん坊に分け与えるようなスキンシップが少なかったことで子供が自閉傾向になってしまうという仮説を主張する際に使われた言葉です。

 

つまり、冷蔵庫マザー仮説というのは、「肌と肌の触れ合う体温を直接感じられるスキンシップが少ないと、自閉傾向になる」という主張です。

 

これが転じて、「自閉症の子供を育てる母は、抱っこなどをしない冷たい母で育児で失敗している」と行った解釈が成立し、多くの親を悩ませました。

 

これを受けて、反対意見として上がったのが1977年のRutter氏の双生児研究です(1)

ルターが21組の自閉症の双子を調べた結果、自閉症の症状が現れる遺伝による影響はおよそ92%と結論づけました。

 

この報告が世界的に広まってからは、「自閉症は親のスキンシップ不足ではなく、遺伝だから予防も改善もできない」という主張の根拠に使われるようになりました。

 

さて、Rutter氏の研究から40年たった現在、「自閉症はスキンシップ不足ではなく生まれつきだから改善はできない」という主張はどこまでが正しくて、どこからが間違っているのでしょうか。

 

自閉症に関してわかってきた数多くの知見を総合して、今までの通説を再評価していきます。

 

1977年の双生児研究の問題点

 

「遺伝だから改善も予防もできない」という主張の根拠に使われているRutterの研究報告には少々問題がありました。

 

1977年当時、まだ自閉症やアスペルガー症候群という存在が一般的ではなかった、あるいは症例数そのものが少なかったこともあって、非常に小さなサンプル数(21組の双子)のみが研究の対象となっています。

 

研究をする上で、サンプル数というのは非常に重要です。なぜなら、もしサンプル数が少ないと例外的な結果を導き出す可能性が高まってしまうためです。

 

わかりやすい例を挙げると以下の通りです。

 

あなたは地球を調査しにきた火星人です。

 

あなたの目的は、地球に存在する「鳥」と呼ばれる生き物の特徴を調べることです。そこであなたは手始めに、ランダムに10羽の鳥を選び抜くことにしました。

 

地球を巡ると、あっという間に10羽の鳥が見つかりました。

 

・ダチョウ

・スズメ

・ニワトリ

・ペンギン

・キウイ

・ヒクイドリ

・エミュー

・ヤンバルクイナ

・カカポ

・オオフナガモ

 

それぞれの特徴を比較したところ、どれも地上を活動し、二本の足で走り回って餌を食べます。唯一飛び回るスズメを除いては、どの鳥も空を飛ぶこともありません。

 

ここから得られたデータを元に、計算したところ地球の鳥のおよそ90%は空を飛ばない生き物であると予想できます。

よって、地球に住んでいる鳥は基本的には飛ばないと結論づけられました。火星にこのデータを持ち帰って世界に向けて発表したところ、「鳥は空を飛ぶ」と信じてこられていた通説が一気にひっくり返されました。めでたしめでたし。

 

さて、この研究結果は正確でしょうか?納得のいくデータでしょうか。おそらく実際を知っている大半の人はNOと答えるでしょう。そればかりか、例外的な10%を無視して「9割は飛ばないから、どの鳥も飛ばない」と一般化しすぎているのも問題です。

 

これをRutterの研究に当てはめると、21組みの双子だけで92%という数字を出したのを鵜呑みにするのはもう少し慎重になった方が良いということです。サンプル数が少ないと、どうしても偏った結果が出やすくなります。

 

もう一つが、残りの8%は遺伝率では説明がつかなかったという点についてです。

 

Rutter自身も、100%遺伝であるとは言えないと認めているわけです。8%は環境などに左右されているということですが、どうもここを無視して「自閉症は環境ではなく生まれつきである」と大きく一般化して情報を発信する人が多いように見受けられます。

 

では、Rutterの研究から40年たった現在、自閉症に関する双生児研究はどこまで進んだのでしょう。

 

2014年の疫学研究では自閉症の遺伝率50%環境50%

 

2014年にLichtensteinらによって大規模な研究が行われました(2)

 

その結果、自閉症の遺伝率はおよそ50%であると結論づけられました。可能な限り正確なデータを得るために、少なくとも37570組の自閉症の双子を調べています。大量のデータを扱っているため、限りなく偏りは中和されていると考えられます。

 

1977年に行われたRutterの21組から得た92%というデータとはとても異なることから、Rutterの研究結果にはサンプル数の不足からくる偏りが数字となって現れた可能性が指摘できます。

 

50%が遺伝となると、残りの50%は環境などによる何らかの影響を受けて最終的には自閉症となっていると考えられるということです。

 

実際、この主張を裏付けるような研究(例えばアルツハイマー病におけるAPP遺伝子やパーキンソン病おけるPARK遺伝子などの決定的な原因遺伝子が、自閉症の場合存在しないなど。)が数々上がっており、現在のトレンドとしては自閉症の予防方法の研究(5〜10)、改善方法の知見の蓄積(3)、自閉症を改善する安全な特効薬を見つけることがメインとなっています。予防方法に関する研究は数多くの知見が蓄積されつつありますが、特効薬に関してはラット研究のレベルでしかまだ見つかっていません(4)

 

自閉症に関する環境的なリスクや原因とは

 

自閉症には自閉症として生まれてくる原因遺伝子が存在しません。しかし、自閉症のリスクを高める遺伝の組み合わせは数多く見つかっています。遺伝的に高いリスクを抱えている場合、妊娠中の体内環境や出生後早期の環境によっては結果的に自閉症に傾いてしまうということがいくつかの研究で示唆されています。

 

これは言い換えると、数多くある環境による影響を特定できさえすれば、自閉症の予防に繋がるということです。となれば、自閉症を予防するための研究を行うことも非常に有意義で意味のあるものであると言えます。

 

予防に関していくつか例を挙げます。

 

妊娠中に葉酸が足りていないと、葉酸が足りている人に比べて2倍自閉症児が生まれるリスクが高まります。ただし、多く葉酸を摂りすぎると逆効果となることもわかっています。(5)

 

妊娠中のバルプロ酸(てんかんや躁うつ病の薬)を飲むと6倍リスクが高まることがわかっています(6)。自閉症のリスクだけでなく、死産や早産などのネガティブなリスクも高まることがわかっています(7)

アレルギーや炎症によっても自閉症のリスクが向上するという報告もあります(8)

 

それ以外にも妊娠中のリスクとして

 

・親の高齢出産

・妊娠中のタバコ

・妊娠中の感染症

 

などもリスクを向上させることが分かっています。

 

出産中のリスクであれば

 

・酸素不足

・帝王切開

・臍帯巻絡(へその緒が首にまきつく)

・困難な出産

 

などです。

 

出産直後であれば

 

・黄疸

・酸素不足

・脳症

・感染症

・髄膜炎

・貧血

・トリハロメタン(クロロホルム)に晒される

 

などが自閉症となるリスク要因となることが報告されています(9)

 

また里親ブカレスト早期介入計画の報告書から分かることは、極端なネグレクト環境や、不適切な育児をした場合、自閉症にとてもよく似た症状が現れるということです。DSM-5に当てはめて考えれば、反応性愛着障害にもっとも近いと考えられますが実際に脳にも発達に異常があることが分かっており、そのネガティブな影響は一般的な神経発達障症よりも深刻です(10)

 

この報告書から分かることは、生まれてから最初の二年にスキンシップ、母子の密着は温かみを感じられるような育児が極端に少なければ、その後自閉症に似た症状である「反応性愛着障害」となる可能性があります。これを予防するためにも、徹底した皮膚と皮膚の温かみを共有する子育てを2年間は続けることで自閉症、あるいは反応性愛着障害のリスクを最大限に下げられると考えられます。

 

マッサージなどで皮膚感覚が正常に発達し、中程度の自閉症だった子が軽度、あるいは改善したという報告もあるので、可能な限り母子密着は行うことを心がけましょう。

 

文献

(1) INFANTILE AUTISM: A GENETIC STUDY OF 21 TWIN PAIRS
Susan Folstein, Michael Rutter

(2) The Familial Risk of Autism. Sven Sandin, et al

(3) Diagnosis of autism spectrum disorders in the first 3 years of life. Landa RJ

(4) Rescue of CAMDI deletion-induced delayed radial migration and psychiatric behaviors by HDAC6 inhibitor. Fukuda T, et al.

(5) New Perspective on Impact of Folic Acid Supplementation during Pregnancy on Neurodevelopmental /Autism in the Offspring Children – A Systematic Review.
Gao Y, et al.

(6) The prevalence of neurodevelopmental disorders in children prenatally exposed to antiepileptic drugs. Rebecca L Bromley, et al

(7) Epilepsy in pregnancy and reproductive outcomes: a systematic review and meta-analysis. Luz Viale, et al

(8) Neuroinflammation – A Zimmerman, M.D.

(9) Environmental factors influencing the risk of autism. Padideh Karimi

(10) http://happy-yurikago.net/2015/05/2183/

関連するキーワード