「幼稚園(学校)に行きたくない」
「ご飯、食べたくない」
「まだ眠くない」
「宿題は後でするから」
こんな風に、親がやって欲しいと思っている事を、子どもが素直に受け入れてくれない場面は、日常生活の中で何度も体験するでしょう。たとえば、お子様との昨日のやり取りを思い出してみて下さい。似たような出来事はありませんでしたか?あなたはその時、どうやって子どもに言う事をきかせましたか?
多くの場合、大人は必死になって子どもの嫌がる事でも我慢させて行わせようとします。そして、多くの場合、そこで子どもに投げかける言葉は、本来やるべきではない対応です。意外に思われる方も少なくないかもしれませんが、まずはこの「やってはいけない12の対応」を、一つずつ列挙していきましょう。
12の対応
たとえば、あなたのお子様が「今日は学校に行きたくない、休みたい」と訴えてきたとします。それに対する悪い返答の仕方をひとつずつみていきましょう。
1.命令・指示
「もう黙って」「ワガママ言うんじゃないの」「行かないとだめ」「行きなさい」
2.脅迫・警告
「いつまでもグズグズ言ってると、罰を与えるからね」
3.説教・教訓
「世の中には、学校に行って勉強したいと思っていても行けない環境で生活している子どもたちだっているの。あなたは恵まれているんだから、勉強できることに感謝しなさい」
4.忠告・解決策
「勉強のことを考えるから嫌になるんじゃない?休み時間に友達と遊んでるところでも思い浮かべたら?」
5.講義・教示・事実の提示
「あなたが家に残っても、パパもママも仕事だから、お昼ご飯を作る人がいないよ」
6.判断・非難・批判
「もう、あなたは本当にだらしのない子ね!」
7.賞賛・ご機嫌取り
「あなたはよく頑張ってる。これまで辛くても登校してこれたじゃない」
8.悪口を言う・バカにする
「まるで赤ちゃんだね。そんなこと言ってるのはあなただけ」
9.解釈・診断・分析
「ママを困らせようとしてるのね」「今日は体育の授業があるから行きたくないんでしょう」「月曜日はいつもそうやって同じこと言うよね」
10.説得・同情
「辛いのね、可哀想な子」「今まで我慢してきたのね」「少しの辛抱だよ」「勉強できる内にしておいた方が、あなたの将来のためになるの」
11.探る・尋問
「どうして学校に行きたくないの?」「誰かにいじめられてるの?」
12.引きこもり・ごまかし
「ほら、週末になったら家族で遊園地にでも行こう」
こんなやり取りをした経験はありませんか?
その時、あなたのお子様はどんな反応をしましたか?
あるいは、あなた自身が子どもだった頃、両親や先生にこんな事を言われた経験はありませんか?
その時、あなたはどんな気分になり、どんな行動をとったか覚えていますか?
これら12の対応は、一見するとそれぞれ全く違う態度のように見えます。しかしながら、これらの対応は、ある一点において共通している部分があるのです。
それは、“相手の事を無視して、自分の言いたい事を言っている”という点です。表面的には子どもの言葉を聞いているように見えても、実は、真面目に聞いていないのです。
さらに、問題は子どもの話を聞いていないだけではありません。これらの対応には、言葉の裏に隠されたメッセージがあって、子どもにはむしろそちらの方が伝わってしまうことさえあるのです。
まず、対応の1から5までに共通してある、隠れたメッセージは、「あなたには正しい判断はまだできないだろうから、私が代わりに教えてあげる」というものです。これは、子どもに対して「あなたにはまだ分からない」つまり、「あなたは頭が悪い」と言ってしまっているようなものです。その上で、「あなたより頭の良い私が正しい決断をしてあげる」とばかりに、大人が優位に立って子どもを上から押さえつけるような態度を示しています。
次に、6から11の対応に共通している隠れたメッセージは、「あなたの様子はおかしいよ」と、子どもに対して「変」である事を伝えています。子どもに普段から関心を持ち、様子の変化に気づくこと自体は大切です。ですが、それは同時に子ども自身の内面に問題の原因を求めすぎてしまう傾向もあるのです。
最後の12は、「その話はしたくない」と、完全に子どもを締め出して、背を向けてしまう態度と言えます。
以上説明した通り、12の対応には一貫して、子どもへの無理解と無関心が現れています。聞いているようで、聞いていない。子ども自身が心を開いて何かを発する前に、大人が先回りして結論を出してしまってるのです。
しかし、見逃してはならない重要なポイントがもう一つあります。それは、このように「聞く耳を持たない態度」というのは、決して親自身が子どもに対して冷たいからとか、厳しすぎるから、無関心だから、というわけではない点です。
むしろ、12の対応をしている親たちは、子どもをどうにかして躾けようと一所懸命でいる方々がほとんどなのではないでしょうか。
つまり、大人は「良かれと思って」こうした12の対応をしているのです。しかし、結果として、そうした対応の積み重ねが「大人は分かってくれない」「どうせ聞いてくれない」といった具合に、子どもたちの大人への不信感をつのらせてしまうのです。思春期の子どもたちが、親や教師に対して心を閉ざしがちになる原因のひとつには、こうした対応の積み重ねがあります。
子育てに一所懸命になればなるほど、子どもの気持ちを無視してしまう…。そんな皮肉な事は、どの家庭でも起き得ることなのです。
12の対応は、聞き方を変える事で改善できる
子どもが必要としているのは、解決策でも、同情でも、説教でもありません。私たち大人がまずすべき事は、聞くことです。
ここでいう「聞く」とは、話し手が表現した思考や感情を理解したことを反映した返事をすること、です。
この聞き方をするには、5つのコツがあります。
1.沈黙
早急に何か返事をしようと焦らないこと。黙っていなければ、子どもの話を聞くことはできません。
2.注意を向けてそばにいる
子どもに身体を向け、顔を見て話を聞きましょう。家事など他の事をしながらではいけません。遠すぎない距離、子どもと1〜2メートルの近さに身を置いて話を聞きましょう。
3.簡単な認知
聞く姿勢として沈黙が何よりも大事ではありますが、黙ったままだと相手が不安を感じるかもしれないし、聞いていないように見える可能性もあります。そこで、「へえ」や「うんうん」などといった、簡単な相槌を打つことも大切になります。
4.オープン・エンドの質問をする
特に相手が子どもの場合は、泣きじゃくったり、激しく怒りすぎて、冷静に自分の気持ちを説明できない場面が多くあります。そこで、大人は相手が喋りやすくなるよう、「どうしたの?」「何か話してみる?」など、相手が言葉を発しやすくなるようの質問 をするのが望ましいです。
5.能動的な聞き方をする
子どもが何か言葉を発したとき、大人にメッセージを伝えてきた時は、たとえそれがネガティブな内容であっても、「ただそう」などと思って対応を急がないことです。子どもが伝えてきた事に対して、私たち大人がまずすべき事は、解決策を編み出す事でも、正しい結論を出す事でもありません。
まずは、私たちが、相手(子ども)の考えや感情を聞いて理解したということを、推測を使ったメッセージに込めて伝える必要があります。そうすれば、子どもは「この人は話を聞いてくれている」と思って、心を開き、次の言葉を探すようになるからです。
たとえば、先の「学校へ行きたくない」というメッセージに対しては、「あなたは学校に行きたくないのね」とひとまずは、聞いた事を理解したと伝えるのが、能動的な聞き方の正しいやり方です。
子どもからのメッセージが単純でストレートなものである場合は、このようにただオウム返しをしているように見えるかもしれません。しかし、子どもから発せられたメッセージが曖昧で、喋っている本人自身でも自分の気持ちをうまく掴みきれていないような場合などは、この能動的な聞き方が、良い効果をもたらすでしょう。