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新聞記事などに批判する訓練を数ヶ月続けたら、なぜ大幅に学力が上がったのか

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ある教育者によると、中学の生徒たちに気になった新聞記事をノートに貼り付けさせ、隣に「◯」「×」「?」のいずれかを記事ごとに書き加える課題を与えたところ、数ヶ月でその課題を続けたクラスだけ他のクラスと比較して、学力テストの平均点が20点以上も高まったそうです。

 

一体何が起きたのでしょうか?また、一見すると「◯」や「×」しか使わないようなとても単純な新聞記事への批判訓練は、脳科学的に見て学力や将来性の向上と何か関連性はあるのでしょうか?

 

意見を聞いてくれる、読んでくれる人がいた

 

はじめにどのような取り組みを行ったのかを順を追って解説します。

 

実験が行われた中学では、生徒間の学力に大きくムラがありました。出来る子とそうでない子との差が大きく、教師としても悩みのタネになっていました。そこで、一人の教師はあるアイデアが思い浮かびます。

 

「新聞記事を批判する、そんなことをこのクラスでやってみようかな?しかし、ムラがある以上嫌がる生徒も出てしまうかもしれない・・・そうだ、初めは「◯」「×」「?」と書き加えるだけにしよう!これなら、少なくとも記事を読んでくれる。そして、直感的にマークしてくれるに違いない!」

 

こう考えた教師は、実際にその取り組みをクラスで実行しました。すると、思った以上に生徒たちは真剣に課題に取り組むようになり、生徒たちは新聞の記事を読むことが習慣付きました。それから1ヶ月もすると、「◯」「×」などと書くだけではスッキリせず自分でどのように思ったかを親に発表するようになりました。

 

生徒たちは、なぜ記事の内容をおかしいと思ったか、なぜ共感できたか、なぜ不可解に思ったかを親に伝えることが増えていきました。親は「なるほど」と話を聞いてくれるので、自分の意見に対して自信が身につきます。それをさらに続けると、伝えるだけでなく実際に自分の意見をノートに書くようにもなりました。

 

特に伸びが大きかった子に共通していたのは、親がそのノートを読んだり、子どもの意見によく耳を傾けてくれたという点でした。誰かに伝えたい、読んでほしいという欲求が満たされた子ほど、新聞記事への批判能力が高まったわけです。

 

最終的にはクラス内での教え合いにまで発展した

 

数ヶ月でメキメキと批判的な思考を身につけ、もっとも進んでいる子では論文レベルの文章を書く生徒も現れました。

 

主張や意見を発表出来るような環境にあったクラスの団結力は高まり、テストが近づくと自主的に勉強会を開いたり、予想問題を作成してお互いに問題を解かせるようなことまでするようになりました。

生徒同士で教え合い、お互いを高め合うような文化が生まれたのです。

 

このような経緯から、新聞記事に「◯」「×」「?」を書き加えるという単純な課題をやるようになってから、たった数ヶ月でそのクラスのテストの平均点は、他のクラスに比べて全ての教科で20点以上も高まる結果となったのです。

 

批判的思考でどういった脳機能が高まったか?

 

まず、文章を読んで理解するという作業を毎日行うようになっただけでも、普段本を読まないような子にとってはとても高い負荷を脳にかけることになります。新聞記事の内容を理解するにはある程度のワーキングメモリが必要だからです。

 

読解には、文書を読み進めながら、それよりも前の文章の内容をある程度記憶にとどめておく活動が必要です。もしもワーキングメモリが弱いと、文章の繋がりを理解できなかったり、内容をすぐに忘れてしまうのでなかなか読み進めることが大変となります。しかし、先ほどの先生は「気になった記事に対して」というルールを付け加えたことで、生徒は自分で気になった記事を頑張って読みます。自発的に興味を持つくらいなので、何か自分の趣味と関係があったり自分の過去のトラウマや弱点などと関係がある内容のはずです。

 

興味のある文章を読んでいる時は、楽しいのでドーパミンが出やすくなっています。そうなると、前頭前野が活性化されるのでワーキングメモリも一時的に高まります。すると、普段は本を読むのが苦手でも好きな文章であれば不思議と内容が頭に入ってくるわけです。

 

記事を理解したら、それに対して共感できたか、納得がいかなかったかなどを無意識に判断します。これは情動記憶を活用しているので、良くも悪くも感情を揺さぶられる内容であればなおさら自分の意見を主張したくなります。

 

「いじめはよくない!」(いじめの経験がある=トラウマ)

「保健所に犬を連れて行くなんてかわいそう!」(動物好き=動物の殺処分が許せない)

「ワッフルが美味しそうでその店に行きたくなった!」(スイーツ好き=食指が動いた)

「憧れのゲームクリエイターのインタビューに興味が湧いた!」(昔よく友達と遊んでいたゲーム=楽しかった思い出)

 

など、自分の意見を誰かに聞いてもらいたくなります。

 

自分の意見を誰かに聞いてもらう、あるいは同じ意見を持った人に出会うとドーパミンが出ます。つまり、共感できたりしてもらうことは心地よいわけです。楽しくなってくるだけでなく、前頭前野が活性化されるのでモチベーションが高まります。

 

こういった訓練を毎日数ヶ月続けると、前頭前野の機能の底上げがされます。ドーパミンは出やすくなり、自分の意見のストックも蓄積されるのでいろんな人に話したくなります。

 

それだけではありません。

 

実は、批判的思考を続けると、IQ よりも将来性と関連性が深い「一般知能g(あるいはIQg)」の神経連絡が強化されることが分かっています。つまり、新聞記事への批判の訓練を通じて自分の将来性が高まるということです。それを裏付けるかのように、クラス内で生徒たちがお互いを高め合う、サポートしあうような文化が醸成され、結果的に学力が高まりました。将来性の高い生徒たちによって構成されたクラスは、学力もついでに高いということです。

 

まとめ

 

・興味のある記事を批判する訓練を続けると、ドーパミンの出がよくなり、前頭前野の機能が高まる。

・自分の意見をうんうんと聞いてもらう、あるいは同じ意見を持つ人の意見を聞くとドーパミンが出る。

・批判的思考の訓練を続けると、一般知能gが高まり将来性と学力が高まる。

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