ADHDは幼いうちからケアしたほうがいいの?
ADHDは、早期発見や早期介入が必ずしも必要なのだろうか。
長い目で様子を見ていけば、いずれは状況がよくなるのではないだろうか。
我が子の振る舞いに疑問を感じつつも、そのように考えている保護者の方はいるかもしれません。事実、研究者によっては、幼少期(小学校に通い出す前の未就学児)にADHDの診断をすることの必要性に、疑問を呈している者もいます。
とはいえ、子どもの発達のことで、キッズデベロッパーに興味を持たれた方や、またはこのコラム記事をいくつか読んだことのある方であれば、自ずと答えは出てくるのではないでしょうか。
結論から言えば、やはりADHDは、できるだけ早い段階で見つけて早めにケアをする方が、子どものためになると言えます。様子を見ているだけでは、状況は良くなるどころが悪化するリスクの方が高いのです。
成長と共にADHDはどのような経過をたどるのか
現状では、ADHDを抱える人々の大半は、10代後半や成人後に病院で診断を受けています。子どもの頃からADHDと診断されて治療なりケアを受けている人の方が、圧倒的に少ないのです。
なぜかというと、子どもの頃にADHDの症状として比較的目立ちやすい衝動性の高さや、過活動といった振る舞いは、「ちょっと周りよりも活発な子だな」くらいにしか思われず、また学習面で成績が悪くても、「本人が不真面目だからだ」とか、「怠けているから」、「努力不足」などと勘違いされてしまうからです。つまり、子どものADHDは、本人の気力次第でどうにでもなる問題であり、周りがそれについて面倒を見てやる必要などない、と見過ごされがちなのです。
そして、思春期や成人期を迎えると、子どもの頃に目立った衝動性や過活動といった症状が落ち着く一方で、不注意、集中力の低下、何事も先延ばしにしがち、といった症状が顕在化しはじめ、本人を悩ませるようになるのです。
私たちは成長するにつれて、より多くの物事を同時に、なおかつ長期的にまとめて処理する力が求められます。家事や仕事は、まさにそれらの繰り返しと言えるでしょう。ところが、ADHDとは、長時間の集中力を必要とする作業や、長期的な視野を持って行動計画を立てることを非常に不得意とするのが、その症状の特徴なのです。そのため、進級や進学に伴ってより難しい勉強をするようになったり、アルバイトを始めたり、社会人として毎日長時間働くようになって、改めて彼らは、ADHDの辛さと向き合うことになります。子どもの頃であれば、親や先生などといった周りの大人たちが最終的に面倒を見てくれていたようなことでも、自力で全て解決しなければならない。そこまで追い込まれてようやく、彼らはクリニックの扉を叩くのです。
もちろん、大人になってからADHDの診断を受けることが無意味だとか、治療を始めるには遅すぎるということではありません。しかしながら、当事者が大人の場合、いざADHDを治療しようとした時に、子どもの頃から診断を受けている人よりも不利になることがあります。それは、子どもの頃からケアを受けてきた人にはカルテがあるのに対し、大人になってから自分のADHDに気づいた人は、症状がどのような経過を辿って、どのようなことを最も不得手とするかなど、そういった自分自身の病歴についての地図が白紙だ、という点です。
ここでは「カルテ」と表現しましたが、必ずしも医師が作成した書類を意味するだけではありません。これはもっと広い意味で、症状に対する対処法や戦略、どんな風に過ごすことがADHDの症状を軽くして、生活を送りやすくしてきたかといった記憶といったもの全てを含むものです。
ADHDが未診断のまま成長した場合について、生活上で抱えるリスクを3段階に分けて整理してみます。
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幼児期:一人歩きができるようになって以降は、多動や衝動的な行動によって、怪我や交通事故に巻き込まれやすくなる。他者に対して攻撃的な振る舞いを取りやすく、喧嘩で手が出ることも。とにかく目が離せない。
2. 少年期:学校の勉強が始まると、スケジュール管理や集団行動がうまくできずに、先生から評価されなかったり、友達から距離を取られてしまうかもしれない。特に、学業のレベルが上がる小学校3、4年生頃になると、「自分は不器用で頭が悪い」と低い自己評価を強く持つようになるリスクが上がる。
3. 青年期:親や先生といった大人たちから離れ、より独立した個人として行動する機会が増える。それはつまり、自分自身の行動を自力で管理しなければならない場面が増えるということである。学生であれ社会人であれ、自分の行動について自分で責任を持たなければならないため、「自己管理ができていない」と周りから責められるリスクも上がる。また、子どもの時よりもさらに忙しい生活をしている人も多いので、仮にここでADHDの診断を受けたとしても、ゆっくりと治療に専念できないかもしれない。また、一人暮らしをしているなど個人での生活時間が多いと、精神的な支えも得られず孤独を抱えるリスクも高くなる。
このように、レベル分けした生活上のリスクを見れば、早い段階で大人が介入して手助けする方が、本人にとっても周囲にとっても良いのは明らかではないでしょうか。青年期以降の治療は、時間的にも精神的にも、子どもの頃のそれに比べて骨の折れる取り組みになるのは間違いありません。というのは、子どもの頃に治療を始めれば、周囲の大人が彼らの行動を管理し、状況に合わせて方針を変えやすいからです。また、自分のすぐそばに「すぐに頼れる絶対的な味方」がいることが、治療を良い方向に後押しするからでもあります。
ADHDかどうかを見分ける目安
ADHDは慢性疾患ですが、個人によって症状の現れかたには差があります。とはいえ、一応の診断基準はあるので、最後にひとつの目安として、参考までにADHDの診断基準を載せておきます。お子様や自分自身に当てはまるところがないかどうか、読んで考えてみてください。そして、必要を感じたら、医療機関に相談に行ってください。そして、私たちキッズデベロッパー のカリキュラムにも、ぜひご参加ください。
注意欠陥/多動性障害(ADHD)の診断基準
A1: 以下の不注意症状が6つ(17歳以上では5つ)以上、6ヵ月以上持続
a.こまやかな注意ができずケアレスミスをしやすい
b.注意を持続することが困難
c.話を聞けないように見える(うわの空、注意散漫)
d.指示に従えず、宿題などの課題が果たせない
e.課題や活動を整理することができない
f.精神的努力の持続を要する課題を嫌う
g.課題や活動に必要なものを忘れがちである
h.外部からの刺激で注意散漫となりやすい
i.日々の活動を忘れがち
A2: 以下の多動/衝動性の症状が6つ(17歳以上では5つ)以上、6ヵ月以上持続
a.着席中、手足をソワソワ、モジモジする
b.着席が期待されている場面で離席する
c.不適切な状況で走り回ったりよじ登ったりする
d.静かに遊んだり余暇を過ごすことができない
e.「突き動かされるように」じっとしていられない
f.しゃべりすぎる
g.質問が終わる前にうっかり答え始める
h.順番待ちが苦手である
i.他の人の邪魔をしたり、割り込んだりする
B: 不注意、多動・衝動性の症状のいくつかは12歳までに存在
C: 不注意、多動・衝動性の症状のいくつかは2つ以上の環境で存在(家庭、学校、職場…)
D: 症状が社会、学業、職業機能を損ねている明らかな証拠がある
E: 統合失調症や他の精神障害の経過で生じたり、説明することができない
(参考文献:森則夫・杉山登志郎・岩井泰秀編『臨床家のためのDSM-5 虎の巻』日本評論社 2014)